5者のコラム 「5者」Vol.77

神無き世界の不条理劇

 演劇は2000年以上の歴史があります。共通するのは何かの事件が起こること。何かの事件が起きて何かの意味で解決する。それが物語として成立する。この演劇の文法を破る作品が1953年に世界で初めて上演されます。<反演劇>の異名を持つ「ゴドーを待ちながら」(サミュエル・ベケット)。ゴドーという名の人物を待つ2人の台詞が延々と続く。結局、ゴドーは来ない。「神なき世界の不条理を描いた」と評されるこの作品は世界的賛美を浴びました。
 近時若手弁護士と話していると「仕事が少ない」と嘆く方が多いようです。しかしこの職業はこっちから出向いていって事件受任を願っても仕事には結びつきません。こういう時は次の句を口ずさむに限ります「風車・風のない日は・昼寝かな」(広田弘毅)。今は風がなくともそのうちに風が吹いてくることを気長に待つことが出来なければ、この職業を続けていくことは出来ないのです。
 私も事務所を立ち上げて直ぐの頃は自分に廻ってくる仕事などあるのかと思っていました。しかし、ある事件が終わる頃には別の事件が舞い込んできて、繰りかえってみると、例年ほぼ同じような線で仕事をしてきました。風は気まぐれに吹いているように見えます。が、実際は大きな気象条件の下で規則的に吹いていました。これまで弁護士業界には神さまがいて、その神の下で偏西風・貿易風のような一定の風が優しく吹いていたように感じられます。しかし時代は変わりました。司法改革の名の下に激増した法曹の多くが弁護士になり、他方で裁判所に係属する事件数は減り続けています。若手には不安が渦巻いているのでしょう。風が吹いてこなかったら?どうする?それは演劇界の話ではなく弁護士業界のリアルな不条理劇なのです。事件が生じない?題名を付けるなら「風を待ちながら」。それは弁護士にとって<神なき世界>の始まりなのかもしれません。

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