5者のコラム 「学者」Vol.18

新法理と知的財産権

 知的な貢献に対して法的保護を与え、合法的な利用方法を制度化し、侵害した者に対して制裁を科すシステムが知的財産権です。羽生名人は二宮清純氏との対談でこう述べています(羽生善治・二宮清純「歩をと金に変える人材活用術」日本経済新聞出版社)。

(二宮)将棋の世界に知的財産権があったらどうなるのでしょう。音楽とか文学って著作権で守られているから創作活動に専念できる面もある。(羽生)一般ビジネスの世界と一番違うのはそこかもしれません。権利関係にうるさくないことが将棋の世界の特徴です。(二宮)本当はいっぱいある訳じゃないですか。(略)普通の企業活動の場合「これは商業登録してあるから勝手には使えません。これを使って儲けたら利益の20パーセントを払いなさい」みたいな話になってもおかしくない。(羽生)ただ権利関係がないおかげで、ここまで急速に進化している面もある。あまり厳格に決めないほうがいいとも思うんです。だから『知的財産権をなくした世界はどうなるのか?』というモデルケースとして見てください。

 ひと昔までサラ金事件は労多くして益少ない業務でした。ところが今では過払金返還請求が儲かる業務の筆頭となっています。利息制限法と貸金業法の関係に関する最高裁の新判例によって可能となったもので弁護士業界に膨大な需要を生み出しました。もしも新しい法理確立への貢献に対して知的財産権が成立し、これは登録してあるから勝手には使えませんという権利が確立しているのであれば、過払金請求訴訟で報酬を得た弁護士は、その前提となる最高裁判例を確立するのに貢献した弁護士に対し報酬の20パーセントを払いなさいみたいな話になってもおかしくありませんが全く存在しません。確立した法規範を引用するのは誰でも自由に出来ることだからです。

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