5者のコラム 「5者」Vol.7

大切な人の死

 映画「Watch with Me-卒業写真」(瀬木直貴監督)は久留米を舞台とした静かな作品。自分がどう死を迎えるか(1人称の死)夫婦の死をどう受け入れるか(2人称の死)が良く描かれています。ライフワークを果たし・青春時代の忘れ物を見つけ・親友や妻に看取られながら・病院ではなく生家で亡くなる主人公は幸せだ、と私は思いました。Watch with Meは「マタイ福音書」の「ゲッセマネの祈り」に出てくる言葉。「私と共に目を覚まして祈りなさい」という意味で、近代ホスピス創設者であるシシリー・ソンダースはこの言葉にホスピスの基本精神として「死が近い人を見守る」理念を込めました。命あるうちに人生の意味を問い直す機会が与えられるのは幸福なことです。私は最愛の人を突然失った方の依頼を多く受けました。ほとんど交通事故です。交通事故死の遺族は最愛の人の死を時間をかけて受け入れることから二重・三重の意味で疎外されています。警察や病院から呼び出され、駆けつけた時には既に死亡していたり危篤状態だったりします。突然の事態に遺族は動転して冷静な対処が出来ません。辛いのは事後の保険会社との交渉です。遺族の気持ちを無視した数字のやりとりによって遺族は肉親の「死の意味」から疎外されていくのです。死亡事故の事件を受任するに当たり心がけているのは遺族の「心の傷」に可能な限り寄り添っていくこと。遺族にとり金銭的多寡など重要ではありません。遺族は被害者が「何故死ななければならなかったのか」その理由を知りたいのです。私は死亡事故に関しては和解を好みません。「時間をかけて真相を見極める」ことのほうが遺族にとっては遙かに大事だと思うのです。交通事故の遺族は最愛の人の「死」を時間をかけてゆっくりと受け入れることから二重・三重の意味で疎外されてきた方々です。遺族の代理人である弁護士までが、こういった疎外に荷担してはいけないと私は思っています。

易者

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