5者のコラム 「医者」Vol.7

医療面接における状況配置

 画像診断の発達により医療面接や身体観察の重要性が低下したかのように思われがちですが、そんなことはありません。理化学検査や画像が教えてくれるのは「点」としての断片的な情報にすぎません。「面」として身体の状態を医師に教えてくれるのは患者の言葉なのです。林紀夫他編集「標準消化器病学」(医学書院)はその要点を7つあげます。1あいさつを行う(患者名を確認し自己紹介をする)。2患者がリラックスできるように配慮する(不安や苦痛への対応を行う)。3対人空間を適切にとる(患者と真正面に向き合わずに90度で対応する)。4視線を向ける(アイ・コンタクト)。5話の進め方(①最初は患者が話しやすいような開放型質問法(オープンクエスチョン)を用いる。②話を促進させる(ことば又はうなずきで)。③後半では症状を確認する。)6患者の感情に対する共感的理解の態度を示す。7良好な「患者-医師関係」を築くように心掛ける。
 構造主義的思考によると「人間の主体性」なるものは幻想に過ぎません。人間は関係性の中で言葉を見いだし、かかる言葉の発話者としての自己を事後的に人格主体として再構成するもののようです。医療の長い実践にもとづいて語り継がれてきた上述の7つのポイントは、かかる構造論的思考に基づいて、患者が医師に対し身体的違和感を表明しやすいような人間関係や状況的配置を、医師側が積極的に(意識的に)作り出すことを促しているのです。精神科医のみならず身体医ですら患者との意思疎通にこれほど気を遣っている以上、依頼者の言葉に直に接するべき弁護士は(依頼者の本当の言葉を引き出すために)更に気を遣っていかなければならないということなのでしょうね。

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