5者のコラム 「役者」Vol.75

具体的にどう言えば良いか?

 鴻上尚史「名セリフ」(ちくま文庫)の記述。<小説はあなたに人生の真実や娯楽やさまざまなことを教えてくれます。戯曲もまたその点は同じです。でも戯曲は小説と違うことをさらに教えてくれます。それは「こういう時はこう言えばいいんだ」という人生の言葉の処方箋なのです。なにせ戯曲は会話だけで構成されていますから、あなたが苦境に陥ったとき・とても嬉しかったとき・困ったとき・振られそうになったとき・一目惚れしたとき、どんな言葉を発すればよいか・何を言えばよいかを具体的に教えてくれるのです。もちろん小説にも会話はありますが圧倒的に少数です。小説の神髄は地の部分の描写です。でも地の文はあなたに具体的にこういう時どう言えばいいのか教えてくれないのです。この重大な事実に日本国民が気づけば戯曲はじつは小説より売れるのじゃないかと思っているのですが、現実は小説の何十分の一ぐらいのセールスしかないようで、あちゃこちゃの出版社では「もう戯曲は出さない」という結論に達しているようです。いかん。じつにいかんことです。このままだと「こういう時、どう言って苦境を脱したらいいのか」という人類の知恵を教えるメディアがなくなってしまうのです。>私は法律実務を学ぶことにより人生で大事なことを教えてもらいました。それは「こういう時はこう対処すればいいんだ」という処方箋でした。苦境に陥ったとき・困ったとき、どんな態度で臨むのか?どんな言葉を発するのか?どんな順番で処理すればよいか?を具体的に教えてくれたのです。法律は一般市民の方に「苦境に陥ったときに具体的にどう対処すればよいのか・どう言えばいいのか」を教えてくれる人類の知恵です。このことに日本国民が気づけば法律は人生を構成する大切な要素だと理解されるはずです。しかし、司法「改革」の結果、実務法曹を志望する若者が減り続けています。いかん。じつにいかんことです。このままだと人類の知恵を教える実務法曹が日本からいなくなってしまうのす。