5者のコラム 「易者」Vol.134

先の大戦の描き方

 橋本明子「日本の長い戦後」(みすず書房)に福間良明教授は次の書評を書いています。

敗戦のトラウマは決して単純なものでも一枚板のものでもない。先の戦争にヒロイックな「英雄」を見いだそうとする「美しい国の記憶」戦争被害者としての思いを強く抱く「悲劇の国の記憶」そして東アジア諸国に対する「加害者」の側面に着目する「やましい国の記憶」。それにしてもドイツ政府公式見解と日本政府のそれは何故かくも大きく異なっているのか?著者は地政学的な要因を指摘する。冷戦構造下の西ドイツが経済的・政治的に生き残るためにはNATOへの参加や欧州統合への協力が不可欠であり、必然的に欧州諸国との和解は最重要課題であった。これに対し日本の隣の中国・北朝鮮・ソ連は共産主義体制下にあった。親米資本主義を選び取った日本にとってそれらの国々は「和解してはならない相手」であった。

先の大戦を如何に描くかは踏み絵を踏むようなものです。どう描いても誰かから反発を買います。「美しい国の記憶」を汚したと糾弾する人・「悲劇の国の記憶」を忘れるなと怒号する人・「やましい国の記憶」を抹消する歴史修正主義者だと反発する人。論理ではなく呪術レベルで行われる空中戦に向き合うのは容易な業ではありません。ドイツと日本は戦後の地政学的立場が違います。軍事的に頼りにせざるを得なくなったアメリカは日本中の都市を空爆して親族を殺した憎むべき加害国でした。中国・北朝鮮・ソ連はイデオロギー的に対立する共産主義国でした。心から頼れる隣国が存在しませんでした。冷戦終結後の中国台頭で台湾は国家としての立場が微妙になりました。韓国は(統一コリアを意識してか)民族主義的主張を強めて日本への反発を明確にしています。かかる状況の中で冷静に歴史を語るのは不可能に近いのです。かようにして東アジアの和解を難しくする「政治の呪術化」が進んでいるのでしょう(涙)。