5者のコラム 「役者」Vol.115

依頼者の主観・客観的な法規範

 神戸尚子氏は演技のアプローチ方法に関し次のように述べています。
 

内的アプローチとは主に脚本の「理解・解釈」の段階で行なわれる。演じる役の性格や育った環境などを詳細に分析し過去の記憶や想像力を用いて演じる役の感情に到達する過程である。「感情体験型」「没入型」とも呼ばれる。内的アプローチの代表的な訓練手法とされるのがメソッド演技である。スタニスラフスキー・システムを基盤に(略)ステア・アドラーらが改良を加え発展させたメソッド演技とは、役を生きるために役が経験する情緒を俳優が実際に経験するための過程であった。外面的模倣による暗示ではなく現実的な情動体験を演技の理想とした。このように俳優の記憶とあらゆる解釈力・想像力に基づくアプローチである。外的アプローチとは実際に稽古場や舞台装置の中で共演者と共に(もしくは単独で)スタッフや観客を前に俳優の身体と声を用いて表現する「創造」段階で行なわれる。俳優の個人的解釈・分析よりも身体の動きとリズムに重点を置いて演技が構成されている。様式的な劇表現に多く用いられ「典型表現」とも呼ばれる。また身体の動き(姿勢・呼吸・表情)が適切な情動を生み出すという理念から、俳優に身体機能の研鑽が求められた。このように運動から情動を導く手法である。(俳優の演技スキルと多次元共感性の関連性)

 弁護士業務における内的アプローチは依頼者との関係で理解・解釈をする段階です。依頼者の性格や環境を詳細に分析し自分の記憶や想像力を用いて依頼者の感情に到達する過程です。規範の押しつけではなく依頼者の主観的経験への肉薄を理想とします。弁護士業務における外的アプローチは相手方や裁判官との関係で弁護士の身体と発話を用いて表現する段階です。客観的な法規範に重点を置いて表現が構成されます。法律家としての典型表現:要件事実をふまえることが要請されます。

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