互換的交換体系の意味
レヴィ=ストロースはインセストタブーに互換的交換体系という見地を導入しました。近親婚の禁止は母・姉妹・あるいは娘を娶ることを禁止する規則であるよりは母・姉妹あるいは娘を他人に与えることを強いる規則である。それは女性を与え、または受け取る集団相互の互換的交換体系を始動させる規則なのである(作田啓一・井上俊「命題コレクション社会学」筑摩書房183頁)。
1つのテーブルに同席した2人の客は互いに自分のワインを相手のグラスに注ごうとする。グラスの大きさは同じであり経済的観点から見ればどちらも得も損もしていない。しかし交換それ自体が何かを生み出すのである。見知らぬ者同士が至近距離で同席するということは全く無関係でいることも出来ず逆に安易な関係を設定することは危険であるといった緊張状態を作り出す。ワインの交換が解決するのは、この社会関係の空白である。友好的社会関係を作り出そうとする一方の行為に対し、相手の取るべき態度は親愛か敵対かのどちらかである。平和裡に食事を済ませそうとするなら人は自分のグラスにワインが注がれるのを拒まず自分もまたお返しにワインを注ぎ、さらにちょっとした会話を交わしもするだろう。この小さなドラマと女性の交換との双方の底流にあるのは交換の目的は精神的なものであり、それは人と人・集団と集団との間の友好と連帯の絆を作り出すことにかかわっているということなのである。
弁護士は「物の所有権を移転する典型契約」として「贈与・売買・交換」を学びます。検討の対象となるのは概ね売買です。現代社会が市場システムに染められているからです。しかし人類の歴史に即して考えれば市場システムが一般化したのは僅か数百年の話です。人類の長い歴史において「社会関係を形成するための基本的な人間の営み」は贈与や交換だったのです。認識を改めましょう。