5者のコラム 「5者」Vol.26

シャーマニズムと感情転移

 超自然的存在と交流して治療や祭儀などを行う呪術的職能者(シャーマン)を中心とする宗教形態「シャーマニズム」があります(「岩波小辞典・社会学」114頁)。日本では東北のイタコや南西諸島のユタが有名です。神霊と交流を行うときのシャーマンはトランスと呼ばれる意識の変容状態に入ります。トランスに陥ると彼ら個人の人格は消滅し神霊の乗り移るところとなります。庶民はシャーマン的存在を欲します。見えないものが見え聞こえないものが聞こえる彼らは庶民にとって畏敬(異形)の存在だったのです。精神医療において医師は患者から強い感情転移の対象となると聞きます。感情転移は精神医療において重要な意義を有しており、これを上手にさばける人が良い医師となります。感情転移が生じないクールな医師は悩み深き患者にとって良い医師とは言えないようです。
 学生の頃、刑事政策の福田雅章教授のゼミテンとともに国立武蔵療養所を訪れたことがあります。応対された精神科医は「こっちの世界とあっちの世界の両方に足をかけているから股裂きになって苦しくなることがある」と仰いました。そのような転移が起こるということはその先生が患者にとって良い存在であることの何よりの証です。「あっちの世界」にも足をかけ股裂き状態に必死に耐えているからこそ患者は自己の人格を精神科医に託し得るのです。
 転移が少ないクールな学者型の弁護士もいますし依頼者以上に熱くなる易者型の弁護士もいます。私は弁護士になって直ぐの頃は学者型。依頼者の感情に振り回されることを恐れ「見識のある弁護士」と見られることを欲していました。が最近「それは本当に良かったのだろうか」と思うことが多くなりました。法律家的見識も大事ですが今の私は依頼者の感情に寄り添うことも同じくらい大事だと思っています。シャーマンにはなり得ませんが、こっちの世界とあっちの世界の両方に足をかけて股裂き状態にならなければならない必然性を感じています。

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