5者のコラム 「易者」Vol.48

「心の現実」のパターン

 学生の頃、ユングを毛嫌いしていました。非科学的な学説・ナチスへの接近など、ありがちな批判を口にしていました。そんな私を正したのは現象学という哲学の考え方です。「『占い脳』でかしこく生きる」(河出書房新社)はこう述べます。>ユング先生は「心の現実」という言い方をしました。たとえば惑星が神々である人にメッセージを与えているはずはない。水星は太陽の近くをぐるぐる回っているだけで、それがマーキュリーだと考えることは間違っている。それは本当です。でも古代の人々にとってはそうではありませんでした。では彼らはお馬鹿さんで下手をしたらどこかが壊れていたのか。ユングはそうは考えませんでした。現代からみたらどんなに馬鹿ばかしくても、それはその人達にとっては現実だった。もっと言えば「心の現実」だった。心の現実は単なる思いこみだと考えるのはたやすいけれど、それが全くでたらめにひとりひとりで作り出せるものなら、世界中の神話や物語、あるいは占いがこれほど似ているはずはない。外側の世界をとらえる科学とは違うかもしれないけれど、一見荒唐無稽に見える物語も実はたくさん集めてみると同じようなパターンがある。それはそれでひとつの法則性があるのではないか。 「火」というイメージには情熱やらパワーやらといった印象がつきまとっていて、どうもそれは国を超えてみんなが共有していそうだぞ、という心の現実のパターンのことが「原型」なのではないかと僕は考えます。(83頁)
 弁護士は科学/非科学、客観/主観、要件事実/事情といった2分法に馴染んでいます。その観点から見れば世間人の思考は不合理の極みでしょう。しかしながら弁護士から見ればどれほど馬鹿ばかしいことであっても、その本人にとっては現実です。心の現実です。荒唐無稽に見える物語にも何らかの合理性が含まれています。弁護士は依頼者に見受けられる心の現実のパターン(原型)を理解し真摯に対話していく努力が必要です。

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