法律コラム Vol.145

抗ガン剤の血管外漏出事故

医療過誤事件を積極的に受任していた頃、医療機関側に出した主張書面です。本件は抗ガン剤投与方法のミスにより重篤な後遺障害が生じた事案(交渉事件)です。(注:大幅に抽象化)

1 事案の内容
 本件は*氏が悪性リンパ腫に罹患し*病院(血液内科)で抗ガン剤投薬治療を受けていたところ、*年*月*日、抗ガン剤の左上肢点滴中に薬剤が血管外に漏出しその状態で放置されたため、結果として*氏に重篤な左上肢機能障害や酷いケロイド状酬状痕等の後遺障害を生じさせた事案です。
2 法的な評価
 本件で使用された薬剤には添付文書上「血管外への漏出により強い障害が生じうること」が明確に警告されています。そのため抗ガン剤の副作用対策として①血液の逆流等で針が血管内に入っていることを確認後に抗ガン剤を投与すること、②点滴中は常にスタッフが患者の側につき監視すること、③スタッフは刺入部やその周辺に皮膚の膨隆や血管外漏出が疑われる痛みがないか確認すること等が明確かつ具体的に指摘されています。本件は明確に要請された上記処置が執られず漫然と薬剤注入が行われ*氏に重篤な被害を招いたものでありますから、病院側の過失は明らかです。
3 今後の方向性
 当職は別紙のとおり*円の損害賠償を請求いたします。円満な話し合い解決を希望するものですが、万一解決の方向性が見えない場合は遺憾ながら訴訟を提起する所存です。

* 本件は約1年半に及ぶ粘り強い交渉を経て相当な内容にて示談解決が出来ました。重篤な左上肢機能障害や酷いケロイド状酬状痕等の後遺障害をふまえた損害認定を得ています。

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