法律コラム Vol.64

弁護士会ADR

福岡県弁護士会は裁判外紛争解決(ADR)制度を有しています。部会毎に仲裁人名簿が整備されています。以下は初めて担当した事案の報告です。

私は今年4月から筑後部会紛争解決センター仲裁人名簿に名を連ねている。5月9日、さっそく部会事務局より4月末に申立がなされた事件について仲裁人を引き受けることが可能か否かの打診があった。申立人・相手方双方ともに特に利害関係がなかったので引き受けることにした。事案は筑後地区内の某建築現場における建築会社と近隣住民間の紛争であった。施主から利害関係人としての参加申し出があった。マニュアルを参照し、特に支障は無いようだったので参加を認めた。
 5月28日、筑後弁護士会館ADR室で双方の言い分をじっくり聞いた。どの方も極めて理知的であり話し合いを冷静に進めるには良い条件であった。問題が2つあった。1つは建築紛争で不可欠な現場の状況が判らないこと・もう1つは自分1人で進めるには建築に関する専門知識が不足していることであった。私は次回期日を現場で開くことにするとともに専門委員として1級建築士の先生を選任して頂くように事務局にお願いした。事務局は名簿の中から専門委員を手際よく選んでくれた。6月7日、第2回期日を現場で開いた。1級建築士の先生と一緒だと心強い。現場で双方の説明を聞くことは、仲裁人にとって有難いばかりでなく、当事者にとっても「きちんと調べて貰っている」という満足感をもたらすようだ。現場見分の後、相手方の住居を借りて再度双方の言い分を聞いた。
 6月17日、第3回期日は弁護士会館に戻り双方から意見を聞き和解の可能性を探った。専門委員は問題をクリアーに整理して頂ける素晴らしい方だった。その意見を踏まえ仲裁人としての仲裁案を明瞭に述べた。昔、医療過誤事件を解決した経験が双方の説得に役立った。7月1日、第4回期日において仲裁案に双方から同意が得られたたため和解が成立した。建築紛争という難しい事件を4回で合意に至ったことは仲裁人として喜ばしいことだ。裁判所の調停ではこんな素早い進行は望めないであろうし2回目に現場に行くという機敏な対応も難しいのではないか。1級建築士に専門委員として係わって貰えたことは当事者の納得を獲得するために有効であった。初めての仲裁人だったが何とかお役に立てたのではないかと思っている。

*「福岡県弁護士会月報・紛争解決センターだより」(2013年9月)に掲載。

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