廃棄物処理法研修
某企業にて廃棄物処理に関する研修を要請されたので引き受けました。現代社会において廃棄物処理に関する具体的な知見を得ることは重要です。以下はレジュメの骨子(若干補正)。
第1 総論
1 廃棄物処理法の意義
廃棄物の処理・保管・運搬・処分などに関するルール。廃棄物排出を抑制し、適正な分別等の処理を行い、生活環境の保全と公衆衛生の向上を図る。環境法として他に循環型社会形成基本法・資源有効利用促進法・各種リサイクル法(食品・家電・建設・自動車・容器包装など)がある。
2 基礎となる考え方
「汚染者負担の原則」(PPP:Polluter-Pays Principle) 廃棄物を排出する者は、自らのコスト負担によって適切に廃棄物の処理等を行うことが求められる。
「持続可能な発展」(Sustainable Development)持続できる環境の保全を前提とした発展。
3 基本概念
「廃棄物」 汚物または不要物であって、固形状または液状のものをいう。*気体は含まない。
総合判断説(最高裁)①対象物の形状②排出の状況③通常の取り扱い形態④取引価値の有無⑤占有者の意思などを総合考慮。リユース(再利用)できるものは「廃棄物」ではない。
「一般廃棄物」と「産業廃棄物」の区別
① 一般廃棄物:産業廃棄物以外の廃棄物をいう。*「特別管理一般廃棄物」もあり。
特別管理一般廃棄物:爆発性、毒性、感染性その他の有害物として政令で定めるもの。
② 産業廃棄物:下記で定義 *同様に「特別管理産業廃棄物」も存在する。
a 事業活動に伴って生じた廃棄物のうち、燃え殻、汚泥、廃油、廃酸、廃アルカリ、廃プラスチック類「その他政令で定める廃棄物」(政令により詳細に規定)
b 輸入された廃棄物((a)の廃棄物、航行廃棄物、携帯廃棄物を除く)
「処理」と「処分」 処理とは廃棄物の処理工程全般を指す。
処分には中間処分と最終処分がある。「中間処分」とは再利用または減量化のために中間加工することをいう。「最終処分」とは地中または海面に埋め立てることをいう。
第2 一般廃棄物の処理等に関するルール
1 原則 市町村の公的事務。公費(税金)で処理する(ただし有料ごみ袋で一部負担)。リサイクルの分別ルールが現場に浸透してきた。「域内処理」が原則。ただし単独自治体での対応が困難な場合には広域連合(一部事務組合)を形成して処分場の運営を行うことがある。
2 特別管理 特別管理産業廃棄物管理責任者の設置:種類の表示・仕切りなど他の物との混合の防止・種類ごとの腐食防止。*爆発性、毒性、感染性その他の有害物として政令で定めるもの。
第3 産業廃棄物の処理等に関するルール
1 基本的考え方
事業者は自ら産業廃棄物を処理する義務を負う。家庭から出る一般ごみのように「公共のごみ収集場」に出すことは認められない(事業者が自ら費用を負担して産業廃棄物を処理する)。
2 処理基準・保管基準
事業者が「自ら」産業廃棄物の運搬・処分を行う場合は「産業廃棄物処理基準」に従わなければならない。処理基準は法施行令6条に定められている。産業廃棄物が運搬されるまでの間、事業者は「産業廃棄物保管基準」に従い生活環境の保全上支障のないように保管しなければならない。産業廃棄物の中でも特別管理産業廃棄物については厳しい「特別管理産業廃棄物処理基準」と「特別管理産業廃棄物保管基準」が設けられている。
3 事業場外で産業廃棄物を保管する場合の届出義務
事業場外で産業廃棄物を保管する場合(300㎡以上の場所における保管に限る・例外あり)は原則としてその旨「都道府県知事に」届け出なければならない。届出事項を変更しようとするときも同様。特別管理産業廃棄物については通常の産業廃棄物と別途の保管届出義務が定められている。なお事業場外における産業廃棄物の保管が「非常災害のために必要な応急措置である場合」は保管の開始日から起算して14日以内に届け出を行えば足りる。
4 運搬や処分を専門業者に委託する場合のルール
産業廃棄物の運搬・処分は「専門業者」に委託するのが一般的。
① 委託先業者の選定:運搬は産業廃棄物収集運搬業者など、処分は産業廃棄物処分業者などに委託する。業として産業廃棄物収集運搬・産業廃棄物処分を行うためには「対応する都道府県知事の許可」が必要である。特別管理産業廃棄物については運搬処分の委託先がさらに限定される。
② 委託時に遵守すべき基準:事業者が「産業廃棄物の運搬・処分を他者に委託する場合」には「委託に関する基準」に従わなければならない。
③ 特別管理産業廃棄物は運搬・処分の委託時に遵守すべき厳格な基準が定められている。
④ 処理状況等を確認する努力義務:事業者は処理状況に関する確認を行い、一連の処理工程における処理が適正に行われるため必要な措置を講ずるように努めなければならない。
⑤ マニュフェスト交付義務:事業者が排出した産業廃棄物の運搬・処分を他人に委託する場合、産業廃棄物の引き渡しと同時に受託者に対して所定の事項を記載した「産業廃棄物管理票(マニフェスト)」を発行しなければならない。事業者は交付した産業廃棄物管理票の写しを5年間保管しなければならない。4月1日から翌年3月31日までに交付した管理票の交付等の状況につき「事業場の所在地を管轄する都道府県知事」に報告する義務を負う。前々事業年度において特別管理産業廃棄物を50トン以上排出した事業者は特別管理産業廃棄物の運搬・処分を他人に委託する際、委託先に対する紙のマニフェスト交付に代えて電子マニフェストへの情報登録が義務付けられている。
5 多量排出事業者の産業廃棄物処理計画の提出・報告義務
前年度の産業廃棄物の発生量が1,000トン以上ある事業場を設置している事業者(多量排出事業者)は産業廃棄物処理計画を作成した上で当該年度の6月30日までに都道府県知事に提出しなければならない。産業廃棄物処理計画の実施状況について翌年度6月30日までに都道府県知事へ報告書を提出する必要がある。前年度の特別管理産業廃棄物の発生量が50トン以上である事業場を設置している事業者は特別管理産業廃棄物処理計画を作成した上で、当該年度の6月30日までに都道府県知事に提出しなければならない。特別管理産業廃棄物処理計画の実施状況について翌年度の6月30日までに都道府県知事へ報告書を提出する必要がある。
6 取り扱いルールを遵守しない場合の罰則(ペナルティ)
事業者が産業廃棄物の取り扱いルールを遵守しない場合、都道府県知事による「勧告・公表・命令」の対象となるほか「刑事罰」が科される。
・措置命令違反
・省令の委託基準違反
・廃棄物の無確認輸出
・廃棄物の不法投棄、不法焼却
・指定有害廃棄物の保管、収集、運搬、処分違反
以上は5年以下の懲役または1000万円以下の罰金
・政令の委託基準違反
・改善命令違反
・廃棄物の無許可輸入
・廃棄物の不法投棄、不法焼却を目的とする収集、運搬
以上は3年以下の懲役または300万円以下の罰金
・廃棄物の無確認輸出の予備行為
以上は2年以下の懲役または200万円以下の罰金
・マニフェストの交付義務違反、記載義務違反、虚偽記載、保存義務違反
・電子マニフェストの虚偽登録・報告義務違反・虚偽報告
・マニフェストに関する措置命令違反
以上は1年以下の懲役または100万円以下の罰金
*廃棄物処理法違反は事故対応の直接コストが大きいことに加え行政庁による企業名公表や社会的信用低下によって莫大な損失を被る(倒産に至る例もある:違反への市場反応は激烈)。
長期的に見れば廃棄物処理法を順守することが「持続可能な経営」に繋がる。現在、環境に対する意識の高さが企業イメージを良くすると認知されており「ISO14001」(環境マネッジメントシステムに関する国際規格)を取得すべく外部機関による審査を受ける企業も増えている。