法律コラム Vol.6

サラ金の金利規制

弁護士会は高金利被害を根絶するため出資法の上限金利を利息制限法まで引き下げることを何度も求めてきました。最高裁判所が平成17年7月に取引履歴の開示義務を肯定し、平成18年1月に期限の利益の喪失約款付き契約に関して「みなし弁済」を否定する判決を下し、改正の政治的気運が盛り上がりました。これを受け昨年3月に出した会長声明です。

貸金業制度・出資の受け入れ・預り金及び金利等の取締に関する法律(以下「出資法」という)の上限金利の見直しのための法案が国会に上程される見通しとなっている。2003年(平成15)7月に成立したいわゆるヤミ金対策法(貸金業規制法と出資法の改正法)において2007(平成19)年1月までに貸金業制度及び出資法の上限金利の見直しを行うとの付帯決議がなされたことを背景としている。金融庁においては、昨2005年7月に貸金業制度等に関する懇談会が発足し、現在、金利の見直し等のための検討が行われているところである。
 貸金業業界は現在、出資法の上限金利を2004(平成16)年6月改正前の40.004%に戻すこと、貸金業規制法43条のみなし弁済規定の要件緩和、同法17条書面、18条書面のIT化(電子メール等の電子的手段によっても交付を認めて、みなし弁済の適用を容易にしようとするもの)等を求めて、国会への要請に力を注ぎ、消費者金融サービス学会に研究費などを提供して上限金利の自由化ないし引き上げを狙っている。最高裁で平成16年2月20日、みなし弁済規定についての厳格解釈の判断が示された以降、貸金業界は立法によるみなし弁済規定の復活のため、自民党や民主党等の政党に対する働きかけを強めている。日本にはアメリカ資本の貸金業者も進出しているが、アメリカ政府の対日要求である規制改革要望書の中では、政府に対して貸金業についての書面要件をIT書面に代えることを要求している。わが国の大多数の消費者金融は、利息制限法超過の金利で営業を行っているが、その借主は、消費者金融系の信用情報センターの登録件数から考えて全国で約2千万人にも達し、日本の就業人口の3~4人に1人が利用していることになる。ほとんどの借主が、消費者金融の貸付金利年25~29.2%が暴利行為を規制する利息制限法に違反し、支払う必要のない金利であることを理解しないまま、借り入れし支払いを継続している。業界の発表でも、平均借入期間6.5年、利用者の3割が10年以上利用しているとされている。我々の経験的な理解によれば、利息制限法により再計算をすると6年程度でほとんど残債は残らず、さらに10年継続して利用した場合、ほとんどが過払いになっていると考えられるので、2千万人の3割600万人が支払い義務のない「貸付金」の返済を強要されていることになる。その高利の返済のために多くの多重債務者が生み出されており、極めて深刻な事態が発生している。
 自己破産の申立件数は20万件を超え、過去5年で約100万人が自己破産の手続きを取っていて、さらに破産予備軍も200万人にも及ぶと言われている。多重債務を原因とした失業や家庭崩壊や失踪は後を絶たず、更には多重債務による経済苦、生活苦による自殺も多発し、2004(平成16)年には全国で約8千人にも達し、交通事故の死者を上回っている。また、一家無理心中や凶悪な犯罪等も発生している。その上、多重債務者の多くが家賃や固定資産税や国民健康保険料等を滞納しており、自治体財政にも悪影響を及ぼし、保険証がなく医療を受けられない状況や、ホームレスを生み出す等、法治国家である日本において不正義が蔓延している。これらの被害の救済と根絶のためには、現行の出資法・貸金業規制法の改正が不可欠である。出資法の上限金利は現在年29.2%と定められている。超低金利政策が長期間継続されていることに照らすと極めて高い。少なくとも利息制限法所定の年15ないし20%の制限金利にまで引き下げることが必要である(利息制限法所定の利率の引き下げも検討が必要であろう)。また多重債務問題の根元にあるのが、利息制限法と出資法のすき間(いわゆるグレーゾーン)を容認する貸金業規制法43条のみなし弁済規定であることは論を待たない。多くの者が支払う必要のない金利であることを理解しないまま、借り入れし支払いを継続して経済的破綻に追い込まれているのである。したがって、これを直ちに廃止することが必要である。出資法で日賦貸金業・電話担保に認められている年54.75%の特例金利についても、かかる立法を基礎づける社会的事実(立法事実)が無いばかりか、この規定が多大なる社会的弊害を生み出していることに鑑みると、これを廃止することが不可欠である。
 日弁連及び九州弁護士会連合会は、これまで何度も高金利被害を根絶するために、出資法の上限金利を利息制限法まで引き下げること等を求めてきた。最高裁判所において、昨年7月には取引履歴の開示義務が肯定され、12月にはリボルビング方式のみなし弁済の適用が否定され、本年1月13日及び1月19日、期限の利益の喪失約款が利息制限法超過利息の支払を事実上強制しているとして、みなし弁済を否定する判決が下され、更には1月24日、九州で顕著な被害が出ている日賦貸金業者に対する特例金利の適用を事実上否定する判決が出されるなど、司法の分野においては、高金利を否定する判決が相次いで出されている。これを立法及び行政に活かすべきことは、法律制度の改善及び進歩を目的とする弁護士及び弁護士会の責務であると言わなければならない。そのためには、人権の擁護と社会正義の実現を目的とする弁護士会が、出資法の上限金利を利息制限法まで引き下げる強力な運動を展開していく必要がある。現在の状況は、弁護士および弁護士会が強力な国民運動を起こさない限り、金利規制の緩和の大きな流れを押しとどめることは不可能である。

* 国会で政治的駆け引きが繰り広げられた結果、ほぼ弁護士会の主張にそった法改正が行われました。サラ金の高金利の時代は長すぎました。この間、弁護士による救済を得られずに自殺した人たちの命は何だったのかと思わざるを得ません。

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