雇用者側の労働審判対応
2006年4月1日施行の労働審判法は個別労働関係民事紛争を対象とし調停手続を含んだ審判手続を創設したものです。主たる特徴は①裁判官の他に労働関係の識見委員2名が加わること②原則3回以内の期日で審理を終結すること③調停により解決できないときは審判を下す(異議の申立があれば訴訟に移行する)ことです。以下に挙げるのは内定者が暴力騒ぎを起こしたので内定を取消した事案に関して、不満を表明した元内定者が「地位確認と賃金仮払い」を求めて申し立てた労働審判において雇用者側の答弁書で論じたものです(大幅に抽象化しています)。
内定は始期付解約権留保付労働契約の成立と解されている(最判昭和54年7月20日)。そして解約権留保の趣旨・目的に照らして客観的に合理的と認められ社会通念上相当として是認することが出来る事実があれば解約すること(内定取消)が認められている。
これを本件についてみるに申立人は内定者を集めた懇親会席上、教育の意味を込めた代表者の話を全く聞こうとせず、壁を何度も意図的に強打し、代表者がこれを制止すると、中身の入ったビールジョッキをテーブルにたたきつけた。それだけでは収まらず申立人は酔った勢いで代表者の顔面を強く殴打した。(略)さらに申立人は土足のまま居酒屋に上がり込んで再度代表者の顔面を殴打した。この行動により代表者の心身を傷つけた他、その場に居合わせた他の従業員や内定者に著しい精神的苦痛を与えるとともに居酒屋にも多大なご迷惑をおかけした。代表者はメガネを飛ばされる程の暴行を受け、警察への被害届でも可能であったが、若い申立人のことを考えて穏便に済ませた。
本件は解約権留保の趣旨・目的に照らし客観的に合理的と認められ社会通念上相当として是認することが出来る事実が優に存在するのであるから内定取消は問題なく認められる。
* 申立人代理人として弁護士が付いていました。同弁護士は依頼者たる申立人から事情を聞いていなかったようで、答弁書と証拠(代表者とその場に居合わせた他内定者と従業員6名の陳述書・その他の客観資料)を提出したところ、第1回期日前に取下書が提出されました。
* 通常訴訟の答弁書は原告主張の認否に留め原告側立証を見極めて反論反証に移るのが普通です。労働審判は実質的に2回で終わるので第1回期日前に全力で主張立証を準備します。結構難儀。