財産分与における法人持分の評価
離婚における財産分与は対象財産の把握・評価基準・分与方法など事案毎に難しい判断を強いられます。特に難しいのが医療法人の出資持分の評価です。以下は高等裁判所で議論したときの主張骨子です(大脇弁護士との共同)。
(評価の基準について)
理論的に継続性の高い法人持分の評価基準は「収益方式」が最も優れている。会社更生を代表とする再建型手続において法人の評価は「企業解体価値」ではなく「企業継続価値」(ゴーイングコンサーンバリュー)が用いられている(会社更生法124条の2参照)。企業の精算を前提とする純資産方式は継続性の高い企業の価値の評価方式として理論的に成り立たない。もっとも収益方式は鑑定評価額が将来収益に全面的に依存しているので根拠が不確実となる欠点を有している。この欠点を補う意味において収益方式に純資産方式を併用する方式が適当な場合もあると思われる。相続税基本通達による評価は、理論的に純資産方式に属するものであるから、上述の欠点を有する。また相続税基本通達は、本来相続や贈与において過大な税負担を軽減する目的で控えめな評価基準が設定されており、動態的な企業評価に適するものではない。ゆえに仮に相続税基本通達による評価を活用するとすれば併用方式における純資産評価に置換する場合のみである。このことは基本通達のみによる方法だと純資産方式よりも更に評価額が低下することがあることからも裏付けられる。
* 原審は夫婦が運営していた2医療法人の財産価値を「純資産方式」のみにより約5500万円と算出しましたが、高裁において公認会計士(東京在住・医療法人の会計に関する専門書籍を執筆されている)による「併用方式」の意見書を証拠として提出した結果、高裁は約1億4500万円と大幅に増額させました。評価基準の違いだけで約9000万円の違いが出てくるのです。
* 本件は10年以上前の事案に関するもの。現時点(平成22年1月)では別の観点も必要です。医療法人制度は平成18年の医療法改正により持分のある医療法人の設立を認めないことになっています。従前の医療法人も社会医療法人(出資持ち分がない)へ移行するものが増えつつあり、医療法人に収益方式を適用すること自体の是非が問われることもあり得ようかと思われます。
* 最近の判例として東京高裁平成20年7月31日があげられます(金融商事判例・09年3月1日号)。これは出資金等返還請求事件です。この判決は数十年前の出資額(20万円)を返還すれば足りると判示して、法人純資産額に出資割合を乗じた金額(約4億7000万円)の支払を求めた原告の請求を実質的に棄却しています。最高裁は平成22年4月8日、上記東京高裁平成20年7月31日を破棄し、出資金返還請求権の額について審理しなおさせるとともに権利濫用の当否について更に審理するよう求めて原審に差し戻しました。