法律コラム Vol.1

弁護士会の静脈

弁護士会の重要な機能のひとつが弁護士に関する紛争の処理です。このことは執行部に入ってみてこそよく認識出来ることです。以下、執行部の一員として会務に携わったときにまとめた文章を転載します。なお、以下の文章で言うところの「静脈系の制度」とは紛議調停委員会、綱紀委員会、懲戒委員会を言います。これら「ハードな制度」と市民をソフトに結びつけるような形で「市民窓口」が設けられています。(以下、福岡県弁護士会「月報」への寄稿文)

人体の臓器を「動脈系」と「静脈系」に分類するならば後者にはガス交換を行う肺や尿を生成する腎臓などが含まれす。いずれも人体にとって有害なものを体外に排出する重要な臓器です。昔、これらの臓器が浸透圧(濃度の異なる2種類の溶液を半透膜で遮る時に生じる圧力)という単純な原理に基づいて機能していることを学び感銘を受けた記憶があります。会務にも「動脈系」と「静脈系」があるように思われます。市民や公共機関に対し積極的に働きかけを行うとともに会員に新鮮な情報を提供して弁護士会の活動を活発化させるのが前者です。会員に関する苦情や不祥事を処理し、場合によっては自治的な懲戒権を行使して弁護士に対する社会の信頼を保持する働きが後者です。後者は(前者に比べて)その存在が見えにくいもので、特に若手会員にとって馴染みがない分野と思われますが、弁護士会の極めて重要な機能です。生体において代謝機能が損なわれれば生命を危うくするのと同様です。弁護士会の「静脈系」の制度は大ベテランの先生方の献身的なご努力により維持されていますが、私はこれも浸透圧(弁護士会という半透膜において倫理性の異なる2主体間に生じる圧力)により営まれている制度であると感じます。弁護士に非があれば内側に向かう力が生じますが、そうでない場合には外側への力が必要です。見識が問われる両者の見極めは本当に難しいものです。これら静脈系の制度を担うためには相当の年季が必要なのでしょうね。

* 静脈系の制度は「弁護士自治の根幹」です。司法改革の進展に伴って、弁護士モラルの低下・依頼者視線の硬化など弁護士会にとっての難しい局面が飛躍的に増加しています。静脈系の制度の重要性がますます高まっていると言って良いでしょう。

次の記事

皮膚感覚としての弁護士会