免疫における大人の対応
審良静男「新しい免疫入門」(講談社ブルーバックス)に次の記述があります。
腸管には体全体の免疫細胞の50%以上が存在する。食物を消化吸収する性質上、食物にまぎれた細菌やウイルスの体内侵入を阻止しなければならない。同時に食物や平和共存する腸内細菌にはむやみに反応しないことも重要だ。これまで説明してきた全身免疫は異物は有害なものとして排除することが基本だった。それに対し腸管免疫は有害物質は排除するが無害な異物は見て見ぬ振りをするという極めて高度な対応を実現させている。(159頁)
免疫とは「自己」と「非自己」を峻別し、「非自己」(異物)である細菌やウイルスの体内侵入を阻止し、侵入してきた場合はこれを死滅させて「自己」を守ろうとする生体の機能です。それは「非自己」(異物)である細菌やウイルスの有害性を認識することに敏感であり、有害であると認識されれば徹底的な攻撃の対象となります。この機能が弱い生物は自己の生命を長らえることが出来ません。ところが腸管には胃から運ばれてきた多くの食物があふれています。しかも腸管中には消化を助ける膨大な細菌が平和共存しています。腸管免疫システムは、対象がたとえ異物であっても有害性が高度でないかぎり、「見て見ぬ振りをする」という大人の対応をするというのです。凄い!
社会的問題にも同様の思考が必要ではないかと思います。ネット上で多く見受ける国家社会の観点が強い方には(生物学のアナロジーとして)逸脱現象を、細菌やウイルスのようなものとして忌み嫌う傾向が看取されます。しかし、社会が健全性(自由)を保つには(雑菌にまみれた)食物が必要ですし(消化を助ける)膨大な細菌も不可欠です。自分の趣味に合わないものでも、有害性が高度でないかぎりは「見て見ぬ振りをする」という大人の対応(寛容性)が必要なのです。