5者のコラム 「易者」Vol.149

要件事実に沿って再構成

板橋作美「占いにはまる女性と若者」(青弓社)に以下の記述があります。 

ポール・リクールによると人間は「時間」という捉えどころのないものを物語化し言語化することによって、捉えることが出来るものに変える。「物語化する」とは時間を出来事の集まりに変え、その集まりを筋に沿って再構成することである。そして個々の出来事や経験は物語の一部となることによって「物語的必然性」を得ることが出来るのだ。ただし、その必然性は物語の結末から遡ることによって得られるものである。後になって理解される、いわば「後ろ向きの必然性」である。

依頼者の話も「物語・ストーリー」です。依頼者は無限に存在する事実の一部を自分の構築した物語に沿って切り取り(自分の意図・欲望に従い)言語化して弁護士に伝えています。それは機械的時間による「無臭の世界」ではなく、生きられる時間による「臭気の世界」です。それは「再構成された事実」なのです。依頼者のコトバによって再構成されたこの事実を、弁護士は要件事実という法律家の共通言語に従って再・再構成しなければなりません。要件事実的な物語構築に必要な事実を組み立てながら裏付けになる証拠(客観的性格の強い証拠を特に重視して)を収集し保全する。このようにして、とらえどころのない依頼者の話が法的な権利(訴訟物)に形を変えていくのですが、問題は依頼者が語るその「必然性」は想定された望ましい物語の結末から遡ることにより得られた「回顧的なもの」であるということです。「後ろ向きの必然性」なのです。それは依頼者の意図・欲望に支配されています。民事紛争にかかわる弁護士の仕事は「裁判所がどうみるか?」という第三者的な目線を意識しつつ臭みを取り「前向きの必然性」として再・再構成していくことにあります。