法律コラム Vol.146

子に関する親の監督責任

未成年者が違法行為を行った場合、親が当然に責任を負う訳ではありません。子が責任無能力者の場合は規定がありますが(民法714条)子に責任能力が認められるときに親は責任を負わないのか?そうならば子が無資力の場合(普通は無資力)被害者は泣き寝入りです。そこで松坂佐一博士により「親が監督責任を怠った場合には親自身の不法行為(民法709条)が成立する」との解釈論が展開されるようになり判例も是認しました(最判昭和49年3月22日)。上記法理を前提に被害者側代理人として提起した民事訴訟で述べた準備書面の一部です。(北村哲弁護士との共同)

1 「*」(子)に対する指導監督義務違反
 刑事記録によれば被告*は連日のように仲間とともに自分の車を乗り回し深夜まで帰宅しなかったことが読み取れる。被告*らは被告*と同居していたので被告*が深夜になっても帰って来ず車庫に車が無いという状況を知っていた。とすれば被告*らは被告*が車を乗り回しながら夜遊びをしていたことも知っていたと言える。未成年者が親権者と同居している場合、親権者の未成年者に対する影響は強いものがある。非行性の高まってきた未成年者に対し適切な措置を全く採らず放任した親権者には指導監督義務の懈怠が認められる(広島高裁松江支部昭和47年7月19日判決・民集28巻2号362頁参照)。被告*は仲間と車を乗り回して夜遊びを繰り返すという非行性ないし不良交友の傾向が認められたので、被告*らは被告*がその非行性の発露として他者に暴行行為を加えることを予見できたはずである。そして被告*の加害行為は被告*らが被告*に対して夜遊びを止めるよう適切に指導監督することで回避できたはずである。よって被告*らには指導監督義務違反が認められる。
2 「*」(犯行に使われた凶器)に関する管理義務違反
 非行性を示す少年に対し*(凶器)を自由に使用させると暴行行為に供される可能性のあることは予見できる。被告*が*を用いた暴行行為に出ることを回避することは、被告*らが*を持ち出すことが出来ない場所に保管することで容易に達成できる、即ち結果回避可能性が認められる。しかるに本件で被告*らが被告*によって*が本件犯行に供されることのないよう管理義務を尽くした事実は全く認められない。よって被告*らには*(凶器)の管理義務違反が認められる。

* 本件訴訟は事案の内実を理解した裁判所から強力な和解勧告が行われ①被告が損害相当額の全責任を認め②うち頭金として相当額を支払い③残の債務を長期分割で支払う④被告が「期限の利益を喪失することなく」一定額を支払ったら原告はその余の支払義務を免除する内容の和解が成立して終了しました(いわゆる「一部完済後免除型和解」です:草野芳郎「新和解技術論」信山社110頁)。事後の長期(約10年)分割の支払い義務を被告側は全部履行しました。

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