5者のコラム 「5者」Vol.165

問題発見型の思考を志向

野家敬一「科学におけるロジックとレトリック」の記述。

新たな知識は暗黙知という言語化できない背景があってこそ「発見」されるものです。その意味でならロジックの知を「問題解決型」の思考、レトリックの知を「問題発見型」の思考と呼ぶことが出来ます。前者は問題が明示的に与えられた上で一定の規則に従って解決を目指す知的活動です。こちらはある程度の厳密な形式化が可能ですし、計算過程や記号操作に還元することが出来ます。それに対して後者の方は問題そのものを見つけ出す思考ですから、そこには厳密な規則は存在しません。問題発見というのは自明の前提の中に安住している間は決してなされることはありません。探求の過程で誰もが疑わずに依存している既成の前提を問い直すときに初めて新たな問題が見えてくるのではないでしょうか。ですから問題発見型の思考とは自分が依拠している規則あるいは思考のルーティンそのものを反省するという、一種の自己言及的な営みに他なりません。(植松秀雄編「埋もれていた術レトリック」木鐸社より)

このコラムはレトリックの知「問題発見型」思考を志向しています。従来の法律的概念では上手く表現できない法曹実務家の実践的知見を他分野で形成されているコトバを下敷きにして間接的に表現する企てです。そこに厳密な規則は存在しません。行き当たりばったりの感覚的記述が適当に並んでいるだけです。何故その記述が為されているかの論証はありません。私は学者ではないので厳密なロジックによるものである必然性が無いのです。このコラムは弁護士の仕事に若干の違和感を感じている私が(弁護士の多くが疑わずに依拠している)既成の前提を問い直す中で感じた疑問を暇つぶし的に取り纏めている「自己言及的な営み」です。読者たる法曹実務家におかれて共感できる「問い」があるならば各人が自ら「答え」を見いだして欲しいと思っています。

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