法律コラム Vol.117

昔の法律実務

手続の電子化に邁進している現在の若手法曹からは昔(約30年前)の法律実務が極めて非合理的なものと見えることでしょう。思いつくままピックアップしてみます。

1 民法(親族法以外)刑法・商法・民訴法が漢字カナ交じり文だった。戦前のまま戦後に引き継がれていた(憲法・親族法・刑訴法は戦後に全面改定され現代文だった)。
2 裁判所の書式はB4袋とじ(2つ折り)縦書だった。コピーが面倒だった。数字やアルファベットが使いにくかった。高齢の弁護士さんの書面は手書きだった。
3 判決書がパラフィン紙のような異常に薄いもので作成されており扱いにくかった。民事事件の判決文は旧様式(要件事実的整理を重視)で作成され素人には読みにくいものであった。
4 民事裁判は超のんびりやっていた。争点整理の感覚は薄かった。弁論準備の先駆的形態である「弁論兼和解」という奇妙な手続きもあった。
5 簡易裁判所ではほぼ代理人が付いていなかった。裁判所の中に常駐する不思議な司法書士がいて当事者の言い分をその場で(手書きで)代書していた。
6 ウェブ会議はおろか電話会議すら無かった。3分の弁論のために遠方の裁判所に出向いていた。
7 刑事国選以外に弁護士会の公益活動は乏しかった。私が登録した頃から法律相談センター活動が活発になり(背景は破産過払バブル)それを原資に公益活動が増えた。
8 裁判所にテニスコートがあって昼休みや終業後に裁判官や書記官が遊んでいた。
9 弁護士会館は無く裁判所の控え室に弁護士会職員がいた。将棋盤や囲碁盤があり暇そうな弁護士さんが対局していた。弁護士も結構のんびりしていた。

* 私は湯島の司法研修所で前後期とも司法修習をした最後の期です(46期)。昔(アナログ)と今(デジタル)の実務の両方を知っています。上の世代の弁護士さんの一部には現在の実務変容に全くついていけない方も相当数います。私もデジタル感覚に疎い部分を自覚していますが、このウェブサイト構築を通し「一身にして二生を生きるが如し」(@福沢諭吉)感覚を養っております。
* 本文で書かなかったことを付け加えます。
 法律扶助協会という団体があって弁護士会の者がほぼ運営をしていた。国費は投入されていなかった。弁護士の広告は禁止されていた。弁護士法人はなく大型事務所は弁護士個人間の契約(雇用・請負・委任・組合のようなもの)で運営されていた。支店も認められていなかった。

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