自分を疑う・相手を信じる
尾藤誠司編「医師アタマ」(医学書院)は現代医療の特徴をこう述べます。
a患者医師間の力学が変化した。患者の権利が重視され独断的医療行為への批判が広がってきた。インフォームドコンセントの重要性が広く認識されるようになった。b疾患分布が急性疾患から慢性疾患に移行した。倫理的要素を加味すべき問題が医療界で現実味を帯びて大きくなってきた。cEBMに代表される医学的な情報のマネジメントが発達した。医学的な有効性についての患者医師間の意見交換の必要性が高くなった。
弁護士業務でも以下の変化が見受けられます。a依頼者-弁護士関係の力学が変化した。依頼者に対するインフォームドコンセントの重要性が広く認識されつつある。b業務内容がハードな事案からソフトな事案に移行してきた。カウンセリング的要素を加味して対処すべき問題が弁護士の世界でも現実味を帯びて大きくなっている。c法律情報が相談者にも拡散してきた。その結果、法的手段の有効性・コスト・問題点についての依頼者-弁護士間の意見交換の必要性が高まっている。
判例タイムズ1264号で須藤裁判官は懇親会での会話を紹介しています。
ベテランの某裁判官は「もっともらしいことは信じちゃいけないんだよ・まず疑ってみなければならない」というお話をされたのです。すると別の裁判官が「そうは言ってもね、実務ではいかにも疑わしいような話が出てくることもあるが裁判所としては一度は信用して考えなければならないんだよ」というお話をされたのです。質問をした若い裁判官は困ってしまって「もっともらしいことは疑ってみる・疑わしいことは信じてみると言われても私はいったいどうしたらいいんですか」となったのです。
「自分の正しさを疑う。とりあえず相手を信じる。」弁護士業務のヒントはそこにある。