5者のコラム 「学者」Vol.23

トポスにもとづく論法の法的意義

香西秀信「反論の技術」(明治図書)の記述。

古代ギリシャ人達が完成させようとして果たせなかった発見の術・発想の術をトピカ(トポスの学)という。トポスというギリシャ語は極めて多義で、その意味するものは必ずしも明確ではないが、この言葉は本来「場所」を意味し、それがレトリックの用語として使われると「有効な(説得力のある)議論を探し出す場所」という意味になる。古代の弁論家(修辞学者)達は人間が議論をする際の発想は決して無限定なものではなく、いくつかの類型が繰り返し現れることに気づいていた。そして様々な日常議論を分析して、人間が議論を進める際の基本的発想を類型化し、それを片端から収集して記憶しておくことを思いついた。そのような類型化された議論の型がトポスである。これを定跡として利用することにより、弁論者は当面の問題において、どのような議論が可能であり、どれが最も効果的かということを知ることができ自らの議論を説得力あるものとして組み立てることができる(80頁)。

アリストテレス「トピカ」(京都大学学術出版会)には様々なトポスの型があげられています。これを後のキケロらが整理して古代ギリシャの修辞学は体系化されました。しかしギリシャの修辞学はその後のヨーロッパでは発展していません。近代科学は「言葉による主観的説得」を嫌い「数学による客観的論証」に価値を認めたからです。が、現代哲学において言葉の重要性が再認識され伝統的レトリックが見直されるようになってきました。トピカが再び脚光を浴びるようになってきたのです。法律家は「トポスにもとづく論法」を無意識にうちに多用しています。他人に対し説得的な議論をしようとすれば、ある一定のトポスを用いらざるを得ないのです。かかる法律家の用いるレトリックは近時哲学者の関心の対象となっており専門的書籍も出版されています(T・フィーベク「トピクと法律学」木鐸社、C・ペレルマン「法律家の論理・新しいレトリック」木鐸社等)。