5者のコラム 「学者」Vol.27
訴訟の方針あれこれ
谷川浩司九段は「光速の終盤術」(日本将棋連盟)でこう述べています。
a読みの筋を「単純な直線的なもの」にする。b受けなくてもいい局面で、受けに回ったがために「より大きな危険に陥る」ということが良くある。守る一手の代わりに間隙をついた攻めがないか?という疑問を常に頭の片隅に入れておいていただきたい。c単純なトレーニングを、数をこなしてしっかりとした基礎体力を身につける。終盤を乗り越えていくための最良のトレーニング方法は「やさしい詰め将棋」を何題も解くこと。d終盤戦は「感覚」で指してはいけない。e優勢な側は単純化を、不利な側は複雑化を。
以上の考え方は訴訟の方針にも通じるような気がします。
1 事件が勝ち筋の時は単純に対処すべきです。ただし、これは訴訟の帰趨の読みについて「自分が相手よりも優っているという条件」の下でのみ言えることです。
2 裁判官が疑問を感じていない時に不要なことをして墓穴を掘る例があります。たとえば苦し紛れの求釈明を受けた際に釈明して不利な心証をもたれたら意味がありません。
3 訴訟における基礎体力を身につけるためには難しい訴訟を1件やって苦しむよりも「日常的な事案を誤りなく普通の解決に導くこと」を複数やったほうが良いようです。
4 訴訟の終盤戦は「感覚」で進めてはなりません。それまでの訴訟資料を「論理的に・正確に・分析し」自己の訴訟行為の裏付けにして対処すべきです。
5 自分の側が不利であれば進行を「複雑化」すべきです。たとえば和解に交換条件を持ち込むなどして全体としてバランスをとるように試みると良いようです。