5者のコラム 「役者」Vol.34

舞台の設営の仕方

「舞台」とは、文字どおり「舞」うための「台」です。舞台は通常、観客席の床面よりも高く設定されます。これにより役者の演技が観客席から見えやすくなり、舞台と客席の区別を付けることが出来るようになっています(新芸術研究会「劇つくりハンドブック」青雲書房50頁)。
 法律家が演じる「舞台」である法廷は劇的に作られています。裁判官席は権威を象徴するように当事者席より高く設けられています。その視野は下界を見下ろす感じになり、どんな人物でも威圧的印象を与える装置になっています。当事者席は公平性を表すために原告・被告のものが同じ大きさで同じ角度で設置されています。傍聴席と法曹空間の間に仕切のための冊(Bar)が設けられ、裁判長から許可を与えられた者以外は中に入れないようになっています。法廷で初めて証言台に立つ人は極度に緊張し震えます。「故意に嘘を付くと偽証罪で処罰されます」との裁判官の警告が緊張を更に高めます。シェイクスピアに倣って言えば「法廷は劇場・尋問は演劇・法律家は役者」なのです。劇的な法廷で繰り広げられる弁論や証人調べは、ややもすると形式的になり、あるいは極めて敵対的になります。これも訴訟に必要な要素のひとつではあるのですが、これだけでは争点整理や和解協議に必要なリラックスした自由な雰囲気を醸し出すことが出来ません。そこで民事訴訟法改正に伴って新設されたのが「ラウンド法廷」というものです。当事者と同じ平面に置かれた丸いテーブル法廷です。法曹と傍聴人を遮る柵もありません。当事者と裁判官は極めて近い距離で楽に話を進めることができます。通常法廷で行われるのは初回弁論と証人尋問だけで、他のほとんどの期日はラウンド法廷で行わています。ここで行われる弁論準備手続は民事訴訟の審理促進に多大なる貢献をしてきました。この手続が定着した最大の要因は「舞台」の設営の仕方が巧みであったことに尽きます。