5者のコラム 「学者」Vol.38

在校生としての弁護士

小中学生の頃、私は転校する生徒を羨ましく思っていました。しかし東京の大学に進学しいろんな友人と話をする中で転校生の辛さを聞かされることがありました。故郷をもてない悲哀を語ってくれた者やいじめられた経験を語ってくれた者がいました。私は「転校生には転校生の辛さがある」という当たり前の事実を認識しました。弁護士はホームグラウンドとする地域を有しています。その地域に根付いて仕事をするのが弁護士の普通のあり方です。在校生であり続けることは「時間の経過により重い人間関係をリセットする気軽さを持てない」辛さを抱えることを意味します。どういう仕事であれ全ての人間関係を投げ出しフリーになりたい衝動に駆られることは大いにあると思いますが弁護士という職業は(自由業といわれている割に)濃厚な人間関係から決して自由になれません。弁護士は”在校生であるべく呪われている”と感じます。裁判官や検察官は通常の場合2ないし4年程度で転勤します。転勤を常態とする人事には多くの場所や職種を経験させることによって任官者としての能力を高めるとともに国家機関が特定の地域に癒着することによって法律業務の公正さが保てなくなる危険性を排除するという意義もあるようです。かかる人事の結果として裁判官や検察官は特定の地域にしがらみをもつ必要性がありません。2ないし4年毎に転勤することは、そのたびに人間関係をリセットして最初から立て直すことを意味します。そこには重い人間関係を時間の経過だけでリセットできる気軽さもありましょうが、他方、せっかく出来た友人と離ればなれになる辛さや特別な存在として注目を浴びる辛さがあるはずです。仕事の引き継ぎも大変でしょう。子供がいる場合は文字通り子供が転校生としての苦悩を抱えることもありましょう。そんなことを考えていくうちに私は”裁判官や検察官は転校生であるべく呪われている”と思ったりするのです。

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