自分の選択への疑問
富家孝「危ないお医者さん」(ソフトバンク新書)はこう述べています。
医学部は6年間ある。この6年間で医学知識と実習をみっちり学ぶことになっている。しかし高い志を持つ者ほど、この6年間での挫折は大きい。とくに実家が裕福でなく受験秀才だけで医学部に入った学生は、医療の現場を知るにつれ、自分の選択に疑問を持つようになる。その逆で、実家の医院を継ぐために入った学生はこんなものかと割り切っているから、それほど挫折感もない。医者が事実上「医者」となるのはこの研修医生活を終えてからである。このときの選択肢は大きく言って2つしかない。開業するか病院に勤めて勤務医になるかである。約3割が開業医となるが、これは医者2世や3世であるか、実家が金持ちで開業資金を出してくれる場合だけだ。単に優秀な学生が医学部を経て医師免許を得ても、それはそれだけの話で、その先には過酷な医療現場が待っているというわけだ。
私の父は田舎の職人であり実家は裕福ではありません。私は「受験勉強と幸運により司法試験に合格しただけ」の人間です。しかしながら実務現場を知った後も自分の選択に疑問を持つことは全くありませんでした。弁護士志望の修習生の選択肢は通常「直ぐに独立するか・先輩の法律事務所に勤めるか」です。前者は当時から「やめた方が良い」という見方が圧倒的でした。独立するためにはイソ弁(勤務弁護士)として数年「修行」するのが当然という見方が一般的でした。法律事務所を開設すること自体は難しいわけではありません。事務所開設の費用は病院開設の費用とは比べものになりません。実家の助けなど必要ではありません。弁護士は机と電話とパソコンとファックスがあれば何とかなります。それでも即時独立には危険性が感じられました。何故なら法律実務は「過酷なもの」であり、その対処法を「オンザジョブで学ぶ必要がある」からなのです。