若手がベテランと組んで学んでいくこと
現代将棋の世界では研究会が盛ん。若手の研究をベテランが吸収して勝つことに関して「搾取」と見る向きもあるようですが深浦康市九段はこの見方を否定して次のように述べます(梅田望夫「なぜ羽生さんだけがそんなに強いんですか」中央公論社)。
新手は著作権的に言えば発想した人にあるのでしょうけれど素材の段階に過ぎません。「ある局面でこういう新しい手がある」というアイデア自体は案外誰でも思いつくもので、言い方は悪いですが、そのアイデア自体は「薄っぺら」なものなんです。「薄っぺら」な状態のアイデアというのは何の味付けもされていない素材と同じです。でも、その素材を知った段階で棋士は皆調理人になるのです。研究会で出た素材をそれぞれが持ち帰って味付の研究をします。三浦さんは研究パートナーの若手棋士と一日がかりでアパートに籠もって研究するそうですが、三浦さんは調理のプロなんですよ。若手が素材を集める人だとして、その素材を三浦さんが調理する。若手としては自分が集めた素材が「これだけの料理になるんだ」という驚きがあると思います。自分もこれくらいの料理が出来るようにならなければいけない、ということも学ぶでしょう。(略)著作権のない将棋の世界での競争は一番強いものが勝つという理想型が貫かれていると思います。若手棋士がそういう強い者になるために自分が考えたアイデアをトッププロと共有して、そこからの調理のプロセスを学ぶというのは正しいあり方でしょう。
ベテラン弁護士は調理方法を蓄積していますが素材が枯渇してきます。逆に若手弁護士は素材を集めても訴訟に生かす調理技術をまだ持ちません。若手がベテラン弁護士と組んで訴訟を行うのは良い経験。自分が考えたアイデアを先輩と共有して訴訟遂行の仕方を学ぶというのは正しいあり方です。搾取ではありません。貴重な経験と認識できる者だけが弁護士としての実力を蓄えていきます。