5者のコラム 「役者」Vol.60

証人の利害について

先日「羅生門」(監督黒澤明・脚本橋本忍)を初めて観ました。凄い作品でした。
 杣売りと旅法師が座り込んでいる。下人がやって来る。下人は2人がかかわりを持つことになった事件の顛末を聞く。杣売りが薪を取りに行くとき武士の死体を発見した。杣売りは検非違使に届け出る。殺害の下手人として盗賊の多襄丸が連行されてくる。多襄丸は「武士を木に縛りつけ女を手籠めにした・女が生き残った方のものとなると言った・武士と1対1の決闘をして見事に勝利したが女は逃げた」と証言。武士の妻が連れて来られた。妻は「自分を手籠めにした後、多襄丸は夫を殺さずに逃亡した・だが眼前で他の男に抱かれた自分を見る夫の目は軽蔑に染まっており、妻は自分を殺すよう訴えた・妻が意識を失い目を覚ましたときには夫に短刀が刺さっており既に死んでいた」と証言。死んだ夫の証言を得るため巫女が呼ばれる。巫女を通じて夫の霊は「多襄丸に手籠めにされた後、妻は多襄丸に情を移し夫を殺すように彼に言った・多襄丸は激昂し、妻を生かすか殺すかは夫が決めていいと言った・それを聞いた妻は逃亡した・多襄丸も姿を消し、1人残された自分は無念のあまり妻の短刀で自害した」と証言。検非違使前の証言は以上である。が杣売りは下人に「3人とも嘘をついている」と言う。杣売りは事件を目撃していた。杣売りによると盗賊が女を手篭めにすると女は悪魔のような形相になり「どちらか勝者のものになる」と2人に決闘をけしかけた。しかし2人は決闘したことがあるのかと思われる程へっぴり腰だった。闇雲に闘った弾みで武士の胸に短刀が刺さった。その間に女は逃げた。3人とも自分を良く見せようと都合のよい証言をしていた。多嚢丸は自分が如何に男らしく闘ったか語り、女は自分の貞淑さを語り、夫の霊は妻が如何に冷たい仕打ちをしたか、と各自が作り話を創作していた。
 証言が「証人の利害」で如何にねじ曲げられるかが良く判ります。ただし、この評価は「杣売りの供述が真実だ」という前提を必要とします。真相は依然「藪の中」なのです。

医者

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