相談と「選択の自由」
鈴木淳史「占いの力」(洋泉社新書y)に以下の記述があります。
占いに限って言えば、近代という時代になって情報量が豊かになり人々が選ぶことが出来るものが増えてきたこともその流行を促した重要な理由である。昔のように神や天の言いつけに従っておればよいということではなくなったのだ。神や天が示す「私を消す物語」には「オレの言うことを黙って聞け」というニュアンスがあった。しかし近代社会の示す「私を消す物語」には「みんな自由なのだから自分の判断でいろいろ決められるよ」というメッセージも含まれている。昔であるならば占いで得た物語も「私を消す物語」のままで留まることが出来た。しかし「自分で選ばねば」という意識に支えられた現代では占いは「私探しの物語」に変貌していく。「私を消す物語」の力は強大だが、それはあくまで社会的対人的なもので、その人の心の中では「自分探しの物語」のウエイトが異常に高いということは前にも説明したとおりである。そして「私探しの物語」も近代が生んだ新しい物語であることを補足しておこう。
昔「託宣」のイメージを引きずっていた法律相談には「弁護士であるオレの言うことを黙って聞け」というニュアンスがあったと私は感じます。これに対して現代社会における法律相談には「みんな自由なのだから自分の判断でいろいろ決められるよ」というメッセージが含まれています。現代の弁護士は相談者の現在状況に関する解釈モデル(権利義務関係)を示しますが、相談者に対して何かを<行動規範として命じる>ようなことはしません。現代の弁護士ができるのは選択肢の提示です。相談者に対して法律家として望ましい方向性を示唆することはありますが、する・しないの最終判断は本人の選択に委ねられます。なぜなら選択の自由こそ現代社会における至高の価値だからです。その価値の軽視は相談者からの苦情として顕れ、弁護士に著しい不利益をもたらすかも。