久留米版徒然草 Vol.209
高齢者本の傾向と対策
酒井順子「老いを読む老いを書く」講談社現代新書。若者が紙の本を読まなくなっているのに対し高齢者は本に対する厚い信頼を持つ世代である。悩みや不安を抱いたときに頼るのはネットではなく生身の人間もしくは紙の本。今の高齢者はおそらく本への愛情を保ちづづけて人生を終えるだろうという著者の指摘は正しい。「恍惚の人」の大ヒットにより、自然現象のように思われた「ぼけ」が「老人性痴呆」なる病気として認識されるようになった(後に痴呆という名称が問題になり認知症と呼びかえられることになる)。「高齢者の迷惑恐怖を煽る終活本」なるコラムは絶妙。2000年代は「捨てる」時代だったと総括し「遺された者が困らないよう貯め込んだものを少しづつ捨てるべきだ」という終活論者とこれに対する反発(五木・みの)を対峙させて笑いをとる構図は見事です。老い本を得意とする著者たちを「老いスター」と呼ぶセンスも秀逸。付録の「老い本年表」は深沢七郎「楢山節考」(1957)以降沢村香苗「老後ひとり難民」(2024)あたりまで網羅して極めて便利。こうした構図を頭に入れることで高齢者本に洗脳される愚を避けることが出来る(かも?)。