久留米版徒然草 Vol.143

終わった人(小説)

内館牧子「終わった人」(講談社文庫)を読了。印象に残る言葉。
 ①社会における全盛期は短い。一瞬だ。あの15歳からの努力や鍛錬は社会でこんな最後を迎えるためのものだったのか。人は将来を知り得ないから努力ができる。②どんな業界にも世代交代はあるよ。どんな仕事でも若い奴らが取って代わる。俺は「生涯現役」ってありえないと思うしそれに向かって努力する気も全くないね。あがくより上手に枯れるほうがずっとカッコいい。③人にとって何が不幸かと言って、やることがない日々だ。やることがなくなってみると、何でもいいから、とにかく1人でできて「時間のかかる趣味」を持っているべきだったと思う。④先が短いという幸せは、どん底の人間をどれほど楽にしてくれることだろう。⑤「こんないい山と川、他にはないよな」俺がつぶやくと、お袋が大真面目に言った「誰だって日本中の人が故郷の山をそう思うのです」。⑥将来を嘱望された男ほど・美人の誉れが高かった女ほど同窓会に来ないというのは良く判る。⑦思い出は時が経てば経つほど美化される力を持つものだ。俺は、勝てない相手と不毛な1人相撲を取っていたのではないか。⑧思い出と戦っても勝てないのだ。勝負とは「今」と戦うことだ。(引用終)
 この小説の感想として「リアリティがない」なる否定的意見を書かれている方が目立ちますが、リアリティを求めるのならばノンフィクションを読めばよいので、違うんじゃないかと私は感じます。小説って「フィクションだけど人生の真実を表現しているもの」が良い作品です。その観点で良い作品ならリアリティの有無などどうでも良い。後半になるにしたがって若干雑な面は目立ちますけど、全体として「人生の真実」の一部を良く表現している作品だと私は思います。

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