歴史散歩 Vol.4
歴史コラム(見知らぬわが町)
行きつけの書店で「見知らぬわが町-1996真夏の廃坑」と題された薄い本(葦書房)を手に取ったのは偶然でした。私がこの本に引きつけられた理由は表紙写真(四ッ山第1竪坑のヤグラ)のシュールさにありました。30秒ほど立ち読みをして即座に購入の意思を固め、喫茶店に入り一気に読み上げました。最初はプロのライターが書いたものと勘違いし、その割には軽い文章だなと感じていました。が、最後に著者欄をみて私は驚愕しました。著者は中川雅子さん、大牟田市内に住む高校1年生だったのです。
序文を書かれている森崎和江氏はこう述べています。
個々の人間の精神にとって船出は『見知らぬわが町』にある日突然気がつくこと。それは見知らぬわが親や、見知らぬわが家、または見知らぬわが日本かもしれません。
私も経験があります。日常の風景として見慣れていた町並みが、ある日、全く違った意味を有したものとして突然浮かび上がる瞬間があるのです。中川さんの凄いところは「おやなんだろと感じた、その感覚の手ざわりを無視することなく、その答えへの入口がわかるまで、汗をかきかき自転車をこいでいく点」(森崎評)なのです。書物をクールに斜め読みする傾向のある私もこの本には泣かされました。森崎先生は「私の心に涙が流れます」と書かれていますが、私は現実の涙を幾度となく流しました。「お涙ちょうだい」の本は決して涙を誘いません。こういう無垢な精神による明るい表現こそが私の心の琴線に触れるのです。私がこの「歴史散歩」のコラムで試みているのは、中川さんをお手本として自分にとっての「見知らぬわが町」を探す旅を続けていくことです。