歴史散歩 Vol.153

久留米のラーメン

旭屋デパート(久留米シティプラザの地にあった筑後初の百貨店)が誕生した昭和12年、九州ラーメンの元祖たる屋台が誕生しました。ここから出発したラーメンは久留米に欠かせない存在になっています。(参考文献:原達郎「久留米ラーメン物語」香月均「久留米大砲ラーメン親子2代熱風録」侃侃房ほか)。(*私の独断が多分に含まれています。)

昭和初年、宮本時男さんは父兼松さんと一緒にうどん屋台を開いていました。昭和10年、宮本さんは弟から「横浜にはシナそばという美味いものがある・あれをやったらどうか」と勧められ横浜の南京街(現在は中華街と呼ぶ)に味の習得に行き、昭和12年ラーメン屋台「南京千両」を始めます。これが九州ラーメンのルーツとされています(原15頁)。屋号は昭和12年に日本軍が中国の首都「南京」を「占領」したことに因むものです。この年、久留米に高射砲第4連隊が設置され、軍都久留米は臨戦態勢を高めていました。ブリヂストンタイヤは本社を久留米から東京に移転し、大正14年に軍縮された第18師団が軍備拡張により復活します。昭和12年は久留米にとって激動の年だったのです。
 宮本さんは久留米「光華楼」のちゃんぽんも研究対象としていました。光華楼は筑後初の中華料理店で大正6(1917)年創業。経営者翁さんは長崎の「四海楼」と縁戚関係があるそうです。久留米が「九州ラーメンの元祖」になる背景にはこの繋がりもあったんですね。「南京千両」のラーメンを食べる方は普通の九州ラーメンとの違いに戸惑うかもしれません。非・白濁とんこつスープ。短冊形のチャーシュー。シナチクと言いたいメンマ。原さんは「刻みチャーシューと麺に横浜中華街の・スープに長崎ちゃんぽんの影響が認められる」と評価しています。宮本さんのご親族(娘さんとお孫さん)が開かれているのが螢川町の「南京千両マリン」です。

現在の典型的な九州ラーメンのスープ(白濁豚骨)は昭和22年に「三九ラーメン」の店主・杉野勝美さんが、豚骨を沸騰させずにとる清湯スープを作ろうとしているときに、火加減を間違い、長時間煮立てて出来た失敗スープが意外に美味かったことで偶然生まれたものです。九州ラーメンの特徴であるトッピングのノリも杉野さんが創始したものだそうです。杉野さんは昭和26年に佐賀市の四カ所出光さんに「三九ラーメン」の屋号を譲ります(この佐賀の「三九ラーメン」は裁判所から歩いて3分くらいの所にありましたが閉店しています)。杉野さん自らは小倉に移って「来々軒」を開き今日に至っています。佐賀の四カ所さんが玉名に出した「三九ラーメン」支店の常連客が修行して開いたのが熊本の名店である「桂花」「こむらさき」「味千」だそうです。

JR久留米駅前に屋台の模型と説明板が設置されています。


現在の久留米一番の人気店「大砲ラーメン」は「青陽軒」の初代店主・飯田さんの義弟である香月昇さんが昭和28年に明治通りに開いた屋台がルーツ。「呼び戻し」と呼ばれる手法を誇っています。 古いスープ釜があり、毎日これと別にとったスープを少しずつ継ぎ足しながら作るという技法だそうです。本店は五穀神社の前にありますが、いつも行列が出来る人気です。

長距離トラック運転手に愛され続けている「丸星ラーメン」は昭和33年の創業です。国道3号線沿いに広い駐車場を確保した24時間営業という斬新なスタイルが人気を博し、久留米を代表する名店となりました。レトロな店舗ながら絶大な人気を誇っています。


本田商店も人気店です。コクがあるスープが大評判。焼き豚も良い。

久留米で不思議なのは、食堂の名前を冠しながらラーメン専門店より旨い店が存在することです。その代表格が明善高校横にある「沖食堂」。昭和30年の創業です。安くて美味しいと評判で、各種ランキングでも上位に食い込んでいます。近時沖食堂は直ぐ近くに新築移転されました。創業以来使い込まれたレトロな店舗が貴重だっただけに残念。(左写真は旧店舗)
 

最近増えてきたのがしょうゆラーメンです。私のお気に入りは警察署右横にある「しのわ」です。平成14年の創業です。ここは無化調(化学調味料を一切使用していない)を売りにしており、後味の良いスープで評判です。開設者である稲益さんは長年酒類を扱っておられ、ワインに極めて詳しい方です。なので「しのわ」も夜はサイドメニューをそろえた居酒屋風の趣向になります。私は普通のしょうゆラーメンに味玉と辛ねぎをトッピングするのが好きです。

矢取信号の脇にある「中る」(あたる)も美味しいお店です。味は(豚骨を含めて)いろいろですが私は鶏ガラスープの醤油ラーメンがお気に入りです。

 久留米市役所の近くに「さっぽろ」ラーメンがありました。非とんこつ・非しょうゆのラーメン店として独自の存在感を放っていたのですが、コロナ禍により令和3年10月末を以て閉店されました。塩バターが美味しかっただけに残念です。
 小森野の「さっぽろ」は今も健在です。札幌ラーメンといえば(塩とともに)味噌ですね。私はバターとコーンをトッピングするのが好きです。

 新たな味噌ラーメンとして「麺志」(隈下・附設高校近く)が出現。本格的な味噌・多加水ちじれ麺・厚いチャーシュー・太いメンマなど麺通をうならせるラーメンになっています。

荘島交差点の横に「麺がっちょ」が出店しました。つけ麺も美味しいですけど、私のお勧めは何と言っても塩ラーメンです。柚子の効いたスープが絶品。

(飛び入りで追加)
*八女市黒木町の「まる万」も美味しいお店。女優の黒木瞳さんや作家の安部龍太郎さんが帰省されるときは必ず立ち寄るという評判です。ここは実家の近くであり、私は子どもの頃からここのラーメンを食べてきました(昔は津江神社の近くにありました)。小さい頃は当たり前過ぎて何とも思わなかったのですが、遠くに離れて初めて美味しい店だったんだと判りました。

(ミニ・ラーメン学講座)
* ラーメンのスープはタレを出汁(ダシ)で割って作ります。出汁は鶏ガラが基本です。他に豚骨・牛骨・削り節・昆布・野菜・煮干などの様々な材料が使用されます(店が一番こだわっているところです・レシピは秘密)。これに臭み消しとしてタマネギ・長ネギ・生姜・ニンニク等の香味野菜が使われます。ただ、これだけでは客の満足するうまみを生み出すことが難しいので多くのラーメン店は更に化学調味料を加えています(化学調味料を使わない無加調ラーメンは極少数です)。これに対してタレはしょうゆ・味噌・塩が基本です。九州の「とんこつラーメン」という表現は出汁による分類であり、タレによる分類としては「しょうゆラーメン」に属します。
* 香月均さんはラーメンのプロとして次の2次元分類法を提唱しておられます。①タレの「多い・少ない」②出汁の「白濁系と清湯系」です。①タレが少ないところは出汁の旨味を前面に出したいんですね、②白濁系出汁は骨を長時間強火で煮込むことで濃厚な舌触りにします。清湯系はさっぱりとした風味のダシを取ります。香月さんは麺に関しても「多加水系と低加水系」を区別するように注意を喚起しておられます(前者の代表が札幌・後者の代表が福岡)。
* 具材としては焼豚(チャーシュー)・メンマ(シナチク)・ネギ(青と白)・煮卵(味玉)・ノリ・キクラゲあたりが一般的ですね。各々に店の特徴(こだわり)があります。

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