返済の不安を負わないこと
修習生に対する給費制度は「司法改革」の名のもとに廃止されました。復活運動は政財官から相手にされていません(*後に復活)。「金持ちしか法曹になれない」という日弁連のスローガンには無理があります。修習生のときに私は「弁護士は住宅ローン以外の借金を背負ってはいけない」との戒めを指導担当弁護士から受けました。弁護士になって以降、私はこの戒めを忠実に守ってきたのですが「戒めを守れる時代的環境に助けられた」と言ったほうが正確です。弁護士は「他人の欲望」の実現を目指す仕事です。単に実現すれば良いというものではありません。社会的に公正と認められる手段での実現を目指すのです。弁護士が公正と認められる手段により「他人の欲望」を実現するためには「自分自身が欲望の虜にならないこと」が肝要です。弁護士自身の欲望を実現する手段として「他人の欲望」の事件処理が位置づけられるようになれば社会的に公正な手段としての職務が歪められてしまうのです。弁護士の職務において「自分のお金」と「他人のお金」の峻別は基本です。他人の金である「預かり金」の中から自分の借金返済の金員を流用(横領)するようになったら終わりです。この基本を没却させないために「弁護士は住宅ローン以外の借金を背負ってはいけない」という戒めがあります。しかし現在の制度は弁護士が出発時点でロースクールと修習に要した「数百万円もの借金」を背負うように設計されています。当たり前のことですがこれでは優秀な人材は集まりませんし法曹の質は下がります。昔の修習生は「司法制度を担う人材」として大切に育てられました。その選抜のために「厳しい司法試験」が課されました。それは「優秀な人材を広く世に求め法曹が経済的不安に駆られることなく良い仕事を遂行できるよう配慮された素晴らしい仕組み」だったのです。修習生に対する給費制の受益者は「司法制度を有する社会全体」なのです。修習生に対する給費制を復活させる意義は「ルサンチマン」(ねたみ)だけの問題ではありません。