5者のコラム 「芸者」Vol.13

賢者は聞き愚者は語る

ホストの会話の基本は「イエス」「ノー」で応えられる質問をしないことです(向谷匡史「ホストの実践心理術」KKベストセラーズ)。「こういうお店はよくいらしゃるんですか?」「いいえ」「お酒は強いんですか?」「いいえ」「昼間はお勤め?」「はい」、これでは洒落た会話になりません(尋問みたいですね)。「いつもはどんなお店に行くんですか?」「どんなお酒が好きなんですか?」イエス・ノーではなく相手が何らかの言葉を以て応えなければならない問いかけをするのがコツです。オープンな質問で得た情報をもとに話題を繋げていきます。売れっ子ホストは「いかにして自分は喋らないか」の技を知っているのです。向谷氏はこう述べます。

悩みや不満も、話をするだけで解消され気分爽快になる。だから、客にどんどん話をさせ、ホストが聞き役に徹することが接客の要諦ということになる。(略)女性心理というのは相手が理解してくれているかではなく、聞いてくれているのだという、その誠意が大事なのだそうだ。「賢者は聞き愚者は語る」 紀元前イスラエルの王ソロモンの言葉である。

弁護士は聞いた内容を法的に構成し事後の方策を依頼者とともに考え実行します。相談者に対し苦言を呈すべきときもあります。ゆえに弁護士がホストと違うことは明白です。弁護士がホストから学ぶべき点があるとすれば、それは法律相談の当初に問題になる相談者との接し方のスタンスです。相談者に気持ちよく話をしていただける心がけは「接客業」として重要なことだと私は思います。修習生の頃「弁護士は自分を売る商売だ」という言葉を聞いて直ぐには意味が判りませんでした。しかしながら今は判ります。弁護士が「結果」を出さなければならないことは当然ですが、提供する法的手段の「プロセス」においても依頼者の方に満足して貰えると嬉しいですね。

易者

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