裁判の恐怖(地獄図と十王像)
九州芸文館で「光明寺寺宝展」を拝見。光明寺は筑後市津島に所在する名刹。筑後三十三観音霊場第23番である。寺宝は素晴らしいものであった。地獄図と十王像が白眉。昔も今も庶民を善導するのに効果があるのは「絵解き」であり、強い感銘を与えるのは「裁判による恐怖」なのである。地獄図の共通した構図に上部は閻魔大王(裁判官)が描かれ、その横に書記官がいて、前に裁かれる死者がいる。書記官は死者の生前の悪行を記した巻物を持っており死者はその弁解をしているのだが脇に置かれている鏡に死者の生前の悪行が明確に映し出されている。その映像を元に閻魔大王は地獄に行く裁判を言い渡すのである。下部には地獄の絵が描かれており、火炎の中で責め苦に苛まれている悪人の姿が多数描かれる。隣に「地獄の中でも衆生を救う」とされる地蔵菩薩が描かれる。地蔵菩薩は地獄・餓鬼・畜生・修羅・人間・天上という6つの冥界(六道)を支配しており「閻魔大王の仮の姿だ」との信仰が存在した。昔、僧侶はこの絵を見せながら庶民に対し「裁判の恐怖」に基づく規範的感銘を与え「正しく生きること」を説いたのである。
光明寺には十王像が全て揃っている。初七日・秦広王(不動明王)、二七日・初江王(釈迦如来)、三七日・宋帝王(文殊菩薩)、四七日・五官王(普賢菩薩)、五七日・閻魔大王(地蔵菩薩)、六七日・変成王(弥勒菩薩)・七七日(49日目)・泰山王(薬師如来)、百日・平等王(観世音菩薩)、一周忌・都市王(勢 至菩薩)、三回忌・五道転輪王(阿弥陀如来)。
死後世界を管轄する裁判官10体が揃って並んだ姿は京都奈良でも拝見したことが無い。撮影自由ですと言われたのだが畏れ多くてとても撮影どころではなかった。