5者のコラム 「学者」Vol.15

知識を得る・クリエイティブなことを試す

羽生さんは良い将棋を指す条件として①知識を得ること、②クリエイティブなことを試すことという2点をあげています(羽生・小山「勉強について私たちの考え方と方法」PHP)。①はセオリーを学ぶこと・その世界の常識を体系的に吸収することです。情報化時代なので全体の大きな流れをつかむことは大切だと羽生さんは言います。次に重要になるのが②新しい戦略や戦術を試す勇気と努力です。②は①の体系的理解を土台にして生み出されます。今まであったものを押さえておかなければ②は我流に過ぎず底の浅いものにしかならないのです。
 判例タイムズ1253号で伊藤真教授はこう発言しています(13頁)。
 

整合性という概念がありますよね。例えばある解釈論や法概念が従来の体系との間に整合的であるかどうかがしばしば問題にされ、それがあるとかないとかいう形で展開されます。それはそれで法律家として考えるべき重要な要素であると思うのですけれど、逆に整合性を重視することが静的な体系を維持することに力点を置きすぎる結果になるのではないかという危惧もあります。私自身の気持ちの二律背反として整合性をどれだけ重視すべきなのか・場合によってはそれを破ってでも新たな考え方を提示すべきなのか終始悩むところです。

私は②に走りすぎる傾向がありました。受験4年目から①の重要性を理解し法律的論理の進め方を身につけましたが、弁護士になってからも再び同じ欠点が出ました。従来の線をきちんとふまえず独自の議論を書き連ねてしまうことが多々ありました。①を守らない議論は実務では決して受け入れられないという基本を没却していたのです。とは言え従来の議論を繰り返すだけでは面白くありません。目前の事件処理だけでなく抽象的な法の発展にも微力ながら寄与したいとの気持ちを一応有しています。そのためにも①を怠らないで②を追求しなければいけませんね。

芸者

次の記事

芸者情報の可視化