舞台上の友人関係
地方都市で法律業務をやっていると依頼者から「相手方弁護士との関係」について疑念を抱かれることがあります。仲が良いの?先輩後輩?出身大学?派閥の関係?「全く関係がありません」と答えていますが、強い疑念を持つ方々に対してはプロ棋士をネタにして弁護士の付き合いを説明します。(以下、先崎九段が羽生世代の仲について書かれたエッセイから)
闘いの場数が少なかったこともあってか、仲良く海外旅行に行ったりしていた。対局の昼休みに一緒に飯を食ったりした。将棋のため様々な犠牲を払った者同士の連帯感があったかもしれない。私も含め皆実に仲が良かった。もっとも棋士というのはそういうものだ。いずれ闘うと判っているからこその友情というものは当事者にしか分からない。
同じことは田舎弁護士にも言えます。法廷で真剣に争う者であっても、だからこそ成立する友情というものが存在するのですね。弁護士になるため様々な犠牲を払った者同士の連帯感すら存在します。東京の某弁護士さんは「田舎の弁護士は馴れ合っていてけしからん」と公言していましたが「普段仲が良いこと」と「真剣勝負で戦うこと」は無関係です。ただし仕事中は(疑念を持たれないように)依頼者の目前(特に裁判所内)では相手方代理人弁護士との親しい会話はしないほうが良いでしょう。当然ながら1つの車に同乗するのは避けるべきです。そこは日常生活の場ではなく「舞台の上」なのですから。もっとも羽生世代の方々もタイトル戦の常連になってからは日常的な付き合いを意識的に減らされました。特に島朗九段が主宰されていた伝説の「島研」は羽生・佐藤・森内がタイトル戦の常連になってから自然消滅しています。そこには彼らの「大人の判断」があったのだろうと感じます。同様に、田舎弁護士の付き合いも時を重ねると各自の生活スタイルの違いが大きくなってきて自然と「淡い水」のようなものに変化していくように感じられます。