5者のコラム 「役者」Vol.137

自分の中にある悪の認識

樹木希林さんは映画「あん」の取材で啓蒙的話ではなく自分の言葉でこう語りました。

私も人生にいろんな出来事がありましたけれども、自分の側に原因を持ってきて考えるとなかなか良い解決方法が出来るんですよ。いつまでも人のせいにしていると全然解決しないのでね。常に自分に起きたことは、常に自分はどうだったかと考えるようにしているんですよ。世の中、大きな事件があって、被害者がかわいそうだと思う。じゃあ加害者が酷いで終わるのではない。どう育てられたのか・何故そうせざるを得なかったのか、そういうことを考えるようになった。(略)世間を糾弾するとき常に自分を疑ってみる。「らい」を無くす運動っていって全国が競ったんですね。これの恐ろしさは身近にいる人が密告をするんですね。もし私がそういう(密告側の)立場にいたとして1番を競っていたら「あそこの家にもいる」「ここにいる」って言わなかったかといえば、私はやらなかったとは言えない。自分の中にそういうものはある。どうしてもそう思えるんですよ。人というものの持つすさまじさを感じた次第なんです。今日に至るまで世界にはたくさんの差別がある。一番怖いのは身近にいる敵なんです。

ドイツにはピカート「我々自身の中のヒトラー」なる著作があります(学生のときに読みました)。「ヒトラーが酷かった」で終わるのでは駄目です。何故にナチス政権は成立し・大衆は熱狂的に支持したか?その時代に生きていたら自分はどうしたのか?を意識しないと意味がない。同じドイツの哲学者ハンナ・アーレントには「悪の凡庸さの報告」という重要な著作があります。普通の人が1番怖い。日本の人権侵害に関しても常に自分を疑うことが肝要です。「自分の中にある悪」を考えることで「自分を客観化・相対化すること」こそが最も重要なのだと思います。