私を消す物語と私探しの物語
鈴木淳史「占いの力」(洋泉社新書y)は占いの「物語」を以下のように説明します。
私を消す物語=細やかなアドバイスによって世界観を無意識のまま植え付け、自分がどのように生きるかを示してくれる一般的に受け入れやすい物語。多くの女性はこの「私を消す物語」を適当に受容して余り深く考えることなく社会に溶けこんでいくように見える。
私探しの物語=ある出来事が怖いのは、それが自分にとってどんな意味があるか判らないからである。それを「物語という器」に放り込んでみる。するとこれらの出来事に意味が与えられ、これがいったいナニモノであるかと悩む必要がなくなってしまう。「私を消す物語」と違って自分と自分の人生に意味を与えてくれる「物語作用」を求めるのだ。
占い師はまず占いが描き出す世界を相談者に受け入れさせます。次いで占い師は「その世界から相談者に対して与えられる意味」を説いていきます。これにより相談者は「自分は何者か・この世界はいかなるものか」という意味を補充されるのです。占いとは「世界の解釈とその適用」に他なりません。法律相談は同じ構造です。個別具体的な相談は抽象化され、法的思考(権利義務関係)に変換されます。そこに個性は存在しません。次にその規範に照らした当該事件の意味が語られます。「Aの場合にはBをすることが出来る」という命題で形成される法規範に照らし当該相談者にとっての事実たるAが示され・なし得ることとしてのBが示されるのです。相談者に対してどんな「物語」を提示するかは弁護士により違いがあります(選択する法規範自体が違うこともあります)。明快な「私を消す物語」を示せないことは結構多いのです。法の適用に関しても諸事実の中のどの事実に焦点を当てるかは弁護士の個性により違うことがあります。「私探しの物語」も簡単ではありません。