5者のコラム 「医者」Vol.37

相談者に対して感じる味覚

宮崎正勝「知っておきたい 『味』 の世界史」(角川文庫)は述べます。

①人間も体液のナトリウム濃度を維持するために汗や排泄物として体外に排出されるナトリウムを補充しなければ生きていくことができない。人間がこの世に生まれ出た時に最初に出会う味覚も母乳に含まれている塩味だった。味覚は塩味により目覚めさせられる。
②舌の先端部分で認知される甘味は、生命を支えるエネルギー源を探し出すための味覚とされる。人類のエネルギーの源となる糖類が甘味を身にまとっているからである。そのため甘味に対する欲求は貪欲といえるほど強く、甘さへの欲望は時に衝動的になった。
③生まれたばかりの乳幼児は苦みと酸味を極端に嫌うという。その理由は甘みと塩味が人間の生存に欠かせない食材を判別する味覚なのに対し、苦みは有毒なもの、酸味は腐敗したものを識別し排除するための味覚だからである。

弁護士も相談者に対して一定の「味覚」を強烈に感じています。
①法律家に不可欠なのは「自分は正義のために働いている」という感覚です。弁護士は相談された内容に正義実現の可能性を感じると(たとえ経済的にペイしなくても)これを受けようとするものです。これは生物にとっての塩味・ナトリウムの必要性に近いものです。②弁護士の甘みは「報酬」の感覚です。弁護士は事務所を維持するために収入を継続的に得なければなりません。事務所を支えるエネルギー源たる糖分が必要です。この甘みの感覚はイソ弁のときは発達していません。事務所を運営して初めて敏感になるものです。③弁護士は特定の相談者を直感的に避けようとします。この話につきあっていくと自分の弁護士生命が危うくなるような苦みの感覚。それは生命体としての弁護士が身につけるべき本能的直感です。他方、弁護士が嫌になるのが依存性の強い依頼者です。酸味を感じたら早めに適切な処置を施さないと、腐敗した食物によって酷い食中毒を起こします。 

役者

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