白黒思考の排斥・事実と規範の区別など
芸者31「心を疲れさせない技術」の前段も有用なので敷衍します。
① 白黒思考の排斥
市民の中には訴訟は白か黒かを付けるものと誤解している方が多いようです。確かに論理的な意味において、訴訟とは原告が勝つための要件を最初に措定し・その要件が具備されたか否かを判断するものです。しかし、法律家は物事を極端な2分法で考えることを極力避けようとするものです。実際の紛争の多くはデジタル思考では解決が図れません。
② 事実と規範の峻別
わずかな事実を一般法則のように結論づけることに法律家は同調しません。なぜなら判断基準にすべき規範は抽象的なものであり具体的事実はあてはめ対象に過ぎないからです。事実をふまえて一般的規範を定立するのは立法府の役割です。法律家の思考は基本原理から推論する考え方「演繹法」に親和性があります。
③ マイナス思考の否定
自分にとって良い出来事を無視したり・何でもない出来事を自己否定的に解釈する考え方を法律家はしません。かかる考え方は自分を不利に追い込むだけです。自分に有利な出来事を積極的に位置づけ・不利な出来事を消極的に位置づけることが弁護士の日常的作業です。弁護士は依頼者に有利になる事実の構成をすべく運命づけられています。
④ 真の個人主義の尊重
世間の不幸全体を特定の個人が背負うような考え方を法律家はしません。個人が他人に対し責任を負うのは(原則として)その事実と自分の行為に因果関係があり、かつ、その事実の出現につき故意または過失がある場合に限られます。それ以外の問題について個人は責任を負いません。かかる思考方法は世間の呪術を解くための技術として有用です。