現実と幻想の相関関係
森下卓九段が長男(大地さん)に関して書かれた文章。
さて大地が生まれてきて、あまりに可愛いのに驚いた。自分の子供だから可愛いとは思っていたが、これ程まで可愛いとは思わなかった。ある方が「子供は3歳までの可愛さで親孝行をし尽くしているのです」と教えて下さったが、そうだろうなと納得した。とはいえ大変なのも事実である。生活が子供中心になり家内ともども振り回されている。この嵐のなかで如何に自分のペースを確立するかが目下の課題である。大地を観察していて気づいたのだが、赤ちゃんという存在は現実100%である。赤ちゃん自身も・育てる側も・ともに現実のみで幻想の入る余地は全くない。現実の積み重ねがあるのみだ。してみると赤ちゃんと対極に位置するのは恋愛かもしれない。私の体験ではこちらは幻想がかなりの比重を占める。幻想の積み重ねと思える。しかし、その幻想から現実が生まれるとは、不思議な気がする。(引用終)
森下九段らしい実直な文章です。おそらく人生の中で「現実」というのは(お釈迦様が喝破したとおり)生・老・病・死という4つしかないように思われます。生まれた赤ちゃんは現実100%。老いること・病気になること・死ぬことも現実100%。幻想が入る余地はありません。束の間の健康こそが幻想なのでしょう。それ以上に幻想なのが恋愛です。恋愛はまさに幻想の積み重ねに他なりません。にもかかわらず「その幻想から現実が生まれる」。幻想をする(何かを夢見る)ことが出来ない人は「新たな現実」をつくりだすことが出来ない。誠に不可思議なのが人生です。弁護士は人の「生・老・病・死」という現実にかかわります。他方、人の幻想に悩まされます。弁護士は現実と幻想の相関関係を継続的に考察していくことが不可欠だと私は感じています。