法律家は二分法では考えない
A 弁護士さんは国家権力を悪だと考えておられるんでしょう?
B そんなことありませんよ。国家が無ければ平穏な生活に必要な秩序が無くなります。法律学は大人の学問ですから「およそ国家が正義か悪か?」といったオール・オア・ナッシング的な思考は普通しないんです。法律家は子供じゃないんだから。
A へー。そうなんですか?じゃあ、法律家はどんな考え方をするんですか?
B 法律家は「抽象的に国家が正義か?悪か?」という2分法で考えるのではなく「国家が正義であるための具体的な条件は何なのか?」といった思考をするんです。
A 国家が正義であるための条件ですか?初めて聞きました。
B 国家権力が正義か悪かなんて一義的には決められないんです。だから「国家が正義であるための条件は何なのか」を法律家たちは具体的に考察してきたんです。
A なるほど。ただ、その「条件」というのが何なのか、よく判らないんですが。
B 立憲主義は国家権力が国民の人権を保障することを目的とし、そのための手段として国家組織が運営されていることを正義性の条件とします。その条件を満たしているのならば国家権力は正義の存在であり、満たしていなければ悪の存在です。
A じゃあ、法律家は人間の本性が善か?悪か?という考え方もしないんですね。
B そのとおり。法律家が考えているのは「人はどんなときに善であるのか?どんなときに悪であるのか?」ということです。単純な2分法ではないんですよ。
A では「人間が正直か、嘘つきか」ということも2分法では考えないんですね。
B 他人が言うこと(供述)を信用しないと事実認定が全く出来ません。なので法律家は「人はどんなときにウソをつくのか?」ということを強く意識しているんです。