5者のコラム 「役者」Vol.67
明確な対立線を描くこと
A 弁護士の仕事の中で、どんな場面が特に演劇的だと感じますか。
B 一番感じるのは証人尋問の場面でしょうか。弁論は書面で自分の主張を行うだけなんです。傍聴している人は普通いませんし裁判官ともフレンドリーに話せます。尋問は全く違います。依頼者が傍聴席にいますし相手方もいます。とても敵対的な雰囲気です。その中で敵性証人や相手方と直接に言葉を交換していくわけです。緊張感の高い舞台で行われるダイアローグなんですね。
A なるほど。たしかに証人尋問というのは演劇的な場面ですねえ。
B 私からもお聞きしたいのですが、脚本家も原作から演劇用に脚本を書く場合がありますよね。モノローグである小説をダイアローグに変換する場合、先生はどんな点に気を遣っているのですか?
A 難しい質問ですね。脚本家によって考え方は違うと思うのですけれども私の場合気を付けているのは明確な対立線を描き出すということです。
B 明確な対立線ですか?それはどういう意味ですか?
A 小説と違い演劇は時間の経過で流れてゆきます。本のように読み直しが出来ません。キャラクターや人間関係が複雑だと観客は作品世界に入り込めないのです。ですから単純明瞭な対立の構図を描いた方がよいと私は考えます。特に中心となるべき2人の登場人物に利害・背景・性格などの対立線が浮かび上がると、観客は作品世界に入っていきやすいと私は考えています。
B なるほど。証人尋問の場面を演劇になぞられる場合も同じことが言えそうですね。争点に関する明確な対立線を浮かび上がらせると裁判官に印象的なんですね。