文学部系で学んだことが役に立つ
大阪大学文学部長・金水敏教授の式辞が素晴らしかったので引用。
ここ数年間の文学部・文学研究科をめぐる社会の動向は人文学への風当たりが一段と厳しさを増した時期であったとみることが出来るでしょう。「税金を投入する国立大学ではイノベーションに繋がる理系に重点を置き文系は私学に任せるべき」といった意見も出ました。文学部で学ぶ哲学・史学・文学・芸術学等の学問の意義はどのように答えたらよいのでしょうか?医学部・工学部・法学部・経済学部、先に挙げた学部よりはるかに少なそうです。文学部で学んだ事柄は職業訓練ではなく、また生命や生活の利便性・社会の維持管理と直接結びつくものではないということです。しかし文学部の学問が本領を発揮するのは人生の岐路に立ったときではないかと私は考えます。今日のこのおめでたい席ではふさわしくない話題かもしれませんが、人生には様々な苦難が必ずやってきます。恋人にふられたとき・仕事に行き詰まったとき・親と意見が合わなかったとき・配偶者と不和になったとき・自分の子供が言うことを聞かないとき・親しい人々と死別したとき・長く単調な老後を迎えたとき・自らの死に直面したとき等です。そのとき文学部で学んだ事柄がその問題に考える手がかりをきっと与えてくれます。しかも簡単な答えは与えてくれません。ただ、これらの問題を考えている間は、その問題を対象化し客観的に捉えることができる。それは、その問題から自由でいられる、ということでもあるのです。これは人間に与えられた究極の自由であるという言い方もできるでしょう。
文学部系分野で学んだことが役に立つのは「逆風のとき」です。弁護士の仕事は依頼者が「人生の岐路に立ったとき」に立ち会うことですから文学部系の分野で学んだことを生かせる場面は多々あります。法曹を目指す学徒には文学部系の勉強もして欲しいと私は願っています。それが「自由業」である弁護士の仕事に深みを与えます。