捜査官の尋問?
尾藤誠司「『医師アタマ』との付き合い方」(中公新書ラクレ)に以下の記述があります。
医療における問診とは捜査官の尋問のようなもので決して普通の会話ではありません。質問を始めた瞬間から医師は被疑者(患者さんを悪くしている原因)を見つけるための医療探偵モードに入ります。そして頭痛がいつからかを尋ねた時点で既にどんな病気にあてはまるのかを具体的に想定し、その病気を見つけるための推理を行う「鑑別診断」というプロセスが始まっているのです。頭が痛い=事件が起こった。そこでその犯人を捕まえるため、医師は可能性のある疾病(犯人)を頭の中でぱーっと並べて、患者さんに質問しながらそれが条件に合うのかを取捨選択しているのです。そして条件に当てはまらない疾病はどんどん除外して絞り込みます。このとき患者さんが必要な情報以外のことを話し出すと気が散って緻密な推理のための思考能力が低下したり混乱したりします。それで話が逸れそうになると医師は我知らず患者さんを遮って推理にとってよけいな話を強制終了させてしまうのです。
法律相談にも捜査官の尋問的色彩が存在します。弁護士は請求権の内容と要件事実を想定し証拠を見つけるプロセスを開始しています。法律問題が存在することを認識した弁護士はクライアントに質問しながら必要かつ可能な手続を取捨選択しているのです。法的に意味の無い事実はどんどん捨象して話を絞り込んでいきます。この瞬時の判断は弁護士になった頃は意識的に組み立てるものですが10年もこの仕事をやっていれば無意識に形成されるようになります。相談者が必要な情報以外のことを話し出すと弁護士は気が散ります。推理のための思考力が低下し混乱します。そのため話が脇道に逸れそうになるとベテラン弁護士はクライアントを遮って「俺が聞いたことだけに答えろ」と怒鳴りつけ、よけいな話を強制終了させてしまいます。これが典型的な「法人」の姿です。