承諾義務・説明義務・搬送義務
医師が診療の結果、専門外の疾患を発見する場合・その疾患に対する経験を有しない場合経験はあっても施術する設備がない場合に、医師は患者を他の適切な医療機関に転送させまたは転医するよう患者に指示しなければなりません。これを転送義務または転医義務といいます(石原寛編「医療紛争の法律相談」青林書院259頁)。この義務は、医師が患者に対し負う注意義務を、他の医師との連携を媒介項として、変形させたものと言えます。転医の際に医師には次の義務が生じます。
「承諾義務」 医師は、搬送可能な転医先について、転医先が患者の受け入れを許諾するか否かを確認し、患者の承諾を得なければなりません。
「説明義務」 転医先医師に対し診療経過を説明しなければなりません。
「搬送義務」 医師は患者を最善の状態で搬送しなければなりません。
相談された内容に専門外の法律問題を発見した場合・その法律問題に関する経験がなく十分な対処が出来ないと思料される場合・対処する十分な人的物的条件がない場合などに他の適切な専門家に転送すべき義務あるいは相談者に指示・勧告をする義務が生じます。逆に言えば、自分が当該問題に対して十分な知識経験を有しなくても、他の専門家を紹介して適切な説明・助言・勧告を行えば、弁護士としての注意義務を果たしたことになります。弁護士は紹介先が受け入れを許諾するか否かを確認し、これまでの経過を依頼者や紹介先に説明し、依頼者を最善の状態で送り届けるべきです。弁護士は自己の専門性を高めるだけではなく他領域の専門家にも関心を持つ必要があります。即ち「一部について全部を知っている」知人専門職を「全領域で」蓄積しておく必要がありましょう。